旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~
――五年後。
「副社長、今日はもうお帰りになられては?」
二十五階建てビルの最上階。ガンベロ本社の副社長室。私は難しい顔でパソコンを覗いている隆臣に声を掛けた。
いずれ父親の跡を継いで社長になる彼は今年の春に副社長に就任し、それと同時に、私のことを第一秘書としてベニッシモから引き抜いた。
私はかわいい部下たちとまだまだ現場でイベントをやりたい気持ちもあったけれど、すっかり頼もしくなった彼らのことはもう心配いらないし、自分自身の成長のためにも秘書の仕事をやってみようと思い、毎日てんてこ舞いになりながらも、なんとか頑張っている。
しかし、私以上に隆臣の忙しさは尋常じゃなく、こうして声を掛けなければ毎日のように無理をして働いてしまうので、秘書兼妻の私としては、そんな彼をフォローするのも大事な仕事だなと、常々感じている。
「ああ、もうこんな時間か……ちょっと待ってて。もう少しで終わる」
私は彼の言葉に頷くと、大きな窓の方へ歩いて行き、ぼんやり外を眺めた。
窓の外に広がるのは、雨に濡れた都会の暗い景色。晴れていれば東京湾に浮かぶビル群の夜景が美しいのだが、梅雨入りしたばかりの最近は、霞がかかったようにぼんやり暗い景色しか見えない。