旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~
「うっさい。しかもまだ失恋してない。デートすっぽかされただけ」
「ああかわいそうに。それはもう別れへのカウントダウンが始まってる典型例だ」
エビの発言は私も予感していたものだが信じたくはなかった。しかし、他人から見てもやはりそうなのかと思い知らされて落ち込む。
「やっぱりそう思う? デートも電話もLINEも最近全部回数が減ってきてて……」
「はーん、確実に自然消滅狙ってんな。どうだ今夜あたり、金曜だし、失恋の前祝いに一杯」
私たちの間にはとにかく遠慮や気遣いがないので、エビの失礼発言も日常会話の延長だ。いちいち腹を立てるのも面倒なので、私はうなずいて承諾の意を示した。
「いいけど、エビのおごりね」
「了解。ま、同期とはいえ俺の方が役職上だしね」
「はいはい、えらいえらい」
「遠い目をすんな。ほら、元気出たなら仕事に戻れ」
まったく……アンタが来なければもうちょっと感傷に浸っていたかったのに。
とはいえエビと話して気分がスッキリしたのも確かで、私は資料室を後にすると頭を仕事モードに切り替え、自分のオフィスに戻った。