旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~

「あの、千葉くん? もうすぐ始業時間だし、話なら後でゆっくり……」
「後でなんて無理です。今すぐ確認しなきゃ今日一日仕事に身が入りません。……で、どうなんです? 本当なんですか、海老名さんとの結婚の噂は」

 険しい顔でじりじりと距離を詰めてくる千葉くんの迫力に負け、私は思わず後ずさる。しかしすぐに背中が壁にくっついてしまい、至近距離から顔を覗かれる。

 やばい、千葉くん、変なスイッチ入ってるよ……!

 このままではキスされかねないんじゃ、という恐れを抱き、私は顔を横にそらしてなんとか言葉を紡ぐ。

「どうって言われても、私とエビはただの同期で……」
「じゃあ、どうして結婚だなんて噂が流れるんですか」
「そ、そんなのこっちが聞きたい――」

 ますます千葉くんに接近されて、半泣きになっていたそのときだった。

「噂じゃねえよ」

 突然廊下から現れた人物が、私たちに向かってそう言った。声のした方をパッと見ると、両手をポケットに入れた、不機嫌そうな表情のエビがそこにいて。

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