旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~
「あ、理子ちゃん。おかえりなさーい」
「萌子さん、ただいまです」
オフィスに戻って一番に声をかけてきたのは、おっとりした声にふくよかな体、いつも乙女チックなガーリーファッションに身を包んでいるふたつ先輩の小木萌子さん。
萌子さんはあまり自己主張はしないものの基本的に協調性があるので、リーダーの私にも一番協力的である。
ただ間食の回数が多く、私が席を立つ前にもチョコレートを食べていたと記憶しているが、今はそれとは別のクッキーをさくさくかじっている。
「中止になったイベントの機材、さっき届いてましたよ。勝手に片づけたら蟹江さん怒りそうなんで、まだ触ってませんけど」
かったるそうな調子で話し、椅子の背もたれに体重を預けてくるくる回転するふてぶてしい態度のショートヘアが、後輩の秋山梢ちゃん。入社三年目を迎えたにも関わらず、いまだに指示待ちでやる気の感じられない、困った問題児。
「……嘘つけ。蟹江さんが怒るとか関係なしに、面倒くさいから放っておこうって言ってただろ」
「ちょっと、なんでバラすの松下!」
梢ちゃんがくわっと目を剥いて睨んだ向かい側の席では、彼女の同期、松下渉くんがクールに眼鏡を光らせていた。