旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~
正直それでも体は反応しかけていたので、早くひとりにさせてくれ、冷静にならせてくれと心の内で叫びつつ、そっけなく彼女をあしらった。
カニがしょんぼりリビングを出ていくと、ソファにどさっと背中から倒れ、天井を睨みつけた。
落ち着け俺……。好きでもない女からあんなふうに迫られることは、一度や二度ではなかっただろう。どうしてこんなに動揺しているんだ。
確かに、カニは今まで出会った俺のスペック目当ての、したたかで計算高い女たちとはまったく違う。
仕事に対して真摯で、ひたむきで。かといって真面目くさっているわけではなく、柔軟性とユーモアがあって。美人だがそれを鼻にかけることなく、見ていると面白いほど表情豊かで、一緒にいて飽きることがない。本当に、蟹江理子は魅力的な女性なのだ。
『って、俺はなんでこんなにカニのことを……』
ふるふる首を振って、寝てしまおうと固く目を閉じる。しかしまぶたの裏には、今までに見たカニの色んな表情が浮かんでは消える。
そのたびに胸がぎゅっと締め付けられる感じがして、拭えない戸惑いの裏に、ひとつの予感があった。