旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~
「わかった、後で見とくね」
「後でですか? できれば今、会議室とかに移動してマンツーマンでダメなとこ指摘してほしいんですけど」
……ほら。妖しいムードが漂ってきた。
私は千葉くんの子犬のように濡れた瞳をちらりと一瞥し、引きつった愛想笑いで聞き返す。
「なんでここじゃダメなの?」
「え、それ聞きます? やだな蟹江さん、俺の気持ち知ってるくせに」
私は「ええ? なにそれ」とすっとぼけて千葉くんの甘ったるい視線をかわし、オフィスの隅に設置されたコーヒーメーカーのところへ避難した。
千葉くんはいつもああなのだ。見た目も言動もチャラいので本気かどうかは怪しいが、入社してすぐに私にひと目惚れしたらしく、すでに数回告白まがいのことをされている。
そのたびに軽くあしらっているのだけれど、彼があきらめる様子はなく……正直、とても仕事がやりづらいので困っている。
今夜、この件もエビに相談してみようかな……。
そんなことを思いながらコーヒーを入れ、千葉くんが自席に戻ったのを確認してから自分もデスクに戻る。エビと話して気分を切り替えたつもりだったのに、スリープモードで暗くなっていたパソコンの液晶に映る私の目は、すっかり疲れきっていた。