旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~
「あの……ごめん。いちおう、結婚してるんだもんね」
「……一応じゃねぇよばか」
じろっと睨まれて、肩をすくめる。するとエビはまたひとつため息をついてから、苛立ったように言う。
「あー……キスしてえ。ちょうど千葉が乗り込んでくるタイミングで」
「ちょ、ちょっと、なに言ってんの……っ」
千葉くんもそうだけど、ここには運転手さんだっているでしょ! それにこんな明るい昼間では、車のそばを歩く人にだって見えてしまうかもしれない。
慌てて周囲をキョロキョロし始める私を見て、エビはふっと笑う。
「……誰にも見られなかったらいいって感じ?」
「え? 別にそんなこと言ってない……!」
否定しつつも、じわじわ頬が熱くなった。そういえば、〝嫌だ〟とは思わなかった――なんて今さらのように気づいて、恥ずかしくて。
「ふうん。……でも、今夜はうちに泊まれよ。未遂だろうとなんだろうと、俺以外の男にお前が押し倒されたと聞いて、内心穏やかじゃねえんだ」
エビは運転手さんに聞こえないくらいのボリュームでそう話し、シートの上で私の手をぎゅっと握る。私よりずいぶん体温が高い、男らしく骨ばった手の感触に、ドキドキ胸が高鳴った。