旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~

「け……検討しとく」

 エビは、その時私にキスをするつもりなのかな。それとも、もっと先まで……?
 
 想像すると顔から湯気が出そうになるので、フルフル首を横に振って雑念を追い払う。

 でも、私たちは千葉くんが来るまでの間ずっと手を握り合っていて。いざ千葉くんがタクシーに乗り込んできてパッと手を離されると、不思議と名残惜しい気分になった。

 私、思ってた以上にエビのこと意識してるかも……。

 走り出したタクシーの車内で、今までは男友達的な好意しか感じていなかったはずの彼の存在が徐々に、けれど確実に大きくなり、自分の心を乱していくのを感じていた。


「……嫌がらせっすか。この、俺の役どころ」

 社に戻り、制作二課のオフィスでさっそく千葉くんに例の寸劇のキャラ設定を見せると、彼は頬をぴくぴく引きつらせながら苦笑した。

「も、もし嫌なら考え直すけど……」
「いや、やりますよ。……結局蟹江さんにとって俺の印象ってそんな感じだったんだなぁって、むしろ吹っ切れたっつーか……」

 遠い目をしてそんなことを語る千葉くんに、私は若干の申し訳なさを感じて気まずく思っていたけれど。

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