旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~
しかし、そんな彼ら以上に一番会場を沸かせたのは、なんと年中発情期の千葉ラビットだった。
演技なのか本当にナルシストなのか知らないが、自分で自分をカッコいいと思っているのであろうキメ顔を作った彼が、会場の若い女性ひとりに向かって甘い声でささやく。
「キミ、かわいいね。おしっこかけてもいい?」
すると女性は「きゃ~」と気味悪そうな悲鳴を上げ、会場には爆笑の渦と拍手が沸き起こった。
彼の名誉のために言わせてもらうと、気に入ったメスに向かって放尿するというのは決して彼の性癖ではなくウサギの習性である。そして脚本を作ったのは、この私。
笑ってもらえればいいなぁと思って書いたセリフだったけれど、ここまで千葉くんの役にぴったりハマるとは……。
会場の盛り上がりに確かな手ごたえを感じ、よしよしとひとり頷いていたその時だった。
「と、虎之助がいません!」
ひとりの若い女性飼育員が、青い顔をしてステージ裏に入ってきた。私のそばにいた園長や他の飼育員が、慌てて彼女のもとへ近づく。