旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~
「いないって……虎之助だけか?」
「はい、他の三頭はちゃんといて……、たぶん、私が檻の施錠の確認を怠ったせいです……どうしよう……」
オロオロと涙を浮かべる女性飼育員。お披露目する予定のホワイトタイガーの赤ちゃんは四頭いるのだが、そのうち一匹の姿が見えないらしい。
「すぐに探そう。一般のお客さんたちに見つかったらパニックになる」
「ああ。万が一変な奴につかまって、売り飛ばされたりしても大変だ」
ひとりの男性飼育員が放ったそんな言葉に、ぞくりとした。
売り飛ばされるって、そんな……。でも、ホワイトタイガーは貴重な動物だから、そういうこともありえなくないんだ。これは、イベントどうこう関係なく、けっこう緊急事態かも……。
私にも何かできないだろうかと彼らの輪に近づいていくと、涙目の新人飼育員が胸につけている名札が目に入った。初心者マークのシールと、その横に書かれた文字は【平目】。
彼女、平目さんっていうのか……。海の仲間じゃない……。
私は強烈な仲間意識を感じ、いっそう彼女を助けてあげたくなった。