旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~
どうやら隆臣の知り合いのようだけれど、どうして彼は不機嫌そうなのだろう。不思議に思っているうちに診察が終わり、医師から帰宅の許可が下りた。
「じゃあ理子さん、お大事に。チャオ」
謎の紳士はそう言って、私たちより先に処置室を出ていった。
チャオって……。じゃあ、最初の挨拶もイタリア語だったのかな……?
「俺たちも帰ろう。歩けるか?」
隆臣が私のバッグを持ち、気遣うように尋ねてくる。
「あ、うん。もう大丈夫。ねえ隆臣、今の人、誰なの?」
ベッドから下りて靴を履き、隆臣の横に立って問いかけた。すると彼は少し間をおいて、短く答える。
「ガンベロの社長」
「えっ!? しゃ、社長……!?」
ベニッシモの女社長の顔なら知っていたけれど、ガンベロの社長の顔は知らなかった……!
「私、失礼な言動してなかったかな……」
「平気平気。ただのイタリアかぶれのおっさんだから」
私は先ほどまでの自分の言動を思い返して不安になるけれど、隆臣はそんなことを言って軽く笑う。