きみに光を。あなたに愛を。~異世界後宮譚~
第16話(1):戦乱の足音。
ヤスミンが悋気に身を振るわせた同じ頃。
アセナはぼんやりと降り続く雨を眺めていた。
「すごい雨ね」
「全くでございますなぁ」
相槌をうちながらリボルは茶菓子を皿に並べていく。
今日の菓子はウダの郷のあるクルテガ皇領産の干したイチジクとサンザシである。
アセナが五人目の皇妃に内定したという話はウダの民の住むクルテガ皇領にも伝わっているらしい。日々なにかしらの品物が献上されていた。
この干し果物も今朝アセナの元へ届けられたものだ。
「準備ができました。お茶が冷めないうちにお召し上がりください」
「ありがとう、リボル」
アセナは席に着き、湯気を上げる茶碗を手にした。
干しサンザシの実を一つ口に入れ、咀嚼する。
強い酸味と干したブドウと香辛料が混じったような独特の香りが口いっぱいに広がった。
「懐かしい。美味しいわ」
サンザシはウダの郷にも自生している身近な果物であった。
酸味があり生でそのまま食べるよりも、加工して保存食として用いるのが主流だ。
幼い頃のアセナと兄弟は、空腹を紛らわすために酸味を我慢して生のまま貪り食っていたものだった。
「左様でございますか? リボルはサンザシは苦手でございます。この酸っぱさは何とも好きになれません」
「都会育ちのリボルには口に合わないのね。美味しいのに」
「そういえばアセナ様」
先ほど宦官の詰め所で聞いた話ですが、とリボルは前置きをしてひどく深刻な顔をする。
アセナはぼんやりと降り続く雨を眺めていた。
「すごい雨ね」
「全くでございますなぁ」
相槌をうちながらリボルは茶菓子を皿に並べていく。
今日の菓子はウダの郷のあるクルテガ皇領産の干したイチジクとサンザシである。
アセナが五人目の皇妃に内定したという話はウダの民の住むクルテガ皇領にも伝わっているらしい。日々なにかしらの品物が献上されていた。
この干し果物も今朝アセナの元へ届けられたものだ。
「準備ができました。お茶が冷めないうちにお召し上がりください」
「ありがとう、リボル」
アセナは席に着き、湯気を上げる茶碗を手にした。
干しサンザシの実を一つ口に入れ、咀嚼する。
強い酸味と干したブドウと香辛料が混じったような独特の香りが口いっぱいに広がった。
「懐かしい。美味しいわ」
サンザシはウダの郷にも自生している身近な果物であった。
酸味があり生でそのまま食べるよりも、加工して保存食として用いるのが主流だ。
幼い頃のアセナと兄弟は、空腹を紛らわすために酸味を我慢して生のまま貪り食っていたものだった。
「左様でございますか? リボルはサンザシは苦手でございます。この酸っぱさは何とも好きになれません」
「都会育ちのリボルには口に合わないのね。美味しいのに」
「そういえばアセナ様」
先ほど宦官の詰め所で聞いた話ですが、とリボルは前置きをしてひどく深刻な顔をする。