きみに光を。あなたに愛を。~異世界後宮譚~
第17話(1):あなたを手放さない。
「ねぇリボル、ちょっと」
アセナは小声で侍従宦官であるリボルを呼ぶと、腕を掴んで足早に部屋の隅へ移動した。声を潜めて問いただす。
「今日いらっしゃるのってヤスミン第一位皇妃様だよね?」
「はい。ヤスミン皇妃様でございます」
今朝方、第一位皇妃の宮から使いがあり来訪の予告があったのは確かだ。こちらの予定を無視して午後の二時に面会指定があった。
「なんでヤスミン様でなくて……」
アセナはちらりと部屋の中央に目をやった。
アスランが座り心地の良いヘマント様式の長椅子に寝そべり寛いでいる。
「陛下がいらしてるの?」
「何故でしょう? 今日の来宮のご連絡、外廷からはいただいておりません。リボルにはわかりかねます」
前触れなしで後宮を訪れるなどは通例ではありえないはずだった。
ほんの数分前のことである。
ヤスミンの来室予告時間ちょうどに来訪者があり、静々とリボルが戸を開けるとするりと無遠慮に入ってきたのが……この後宮の主であった。
アセナとリボルはアスランの姿に冷や汗をかいた。
第一位皇妃に弱味を握られないように細心の注意と準備を以って迎えられるように、朝から全力で行っていた準備が終わった頃合であった。結果的に問題なく皇帝を迎え入れることが出来たのだが。
あやうく不測の事態も起こりえる状況に陥るところで間にあった。ギリギリだ。
連絡なしの渡りというのは迎え入れるほうには大変な負担である。事前連絡は必須だ。
リボルは首をかしげながらも、ポンと手を叩き、中年太りなのかホルモン不足ゆえの肥満なのか大きく育った腹をぶるると揺らした。
「でもそれだけアセナ様にお会いになりたかったという事でしょう。五人の皇妃で一番の御寵愛を賜っていらっしゃる。めでたいことではありませんか」
「わぁ前向きねぇ。あんたのそういうところ嫌いじゃないよ」
どんなときでも変わらないリボルである。
アセナは小声で侍従宦官であるリボルを呼ぶと、腕を掴んで足早に部屋の隅へ移動した。声を潜めて問いただす。
「今日いらっしゃるのってヤスミン第一位皇妃様だよね?」
「はい。ヤスミン皇妃様でございます」
今朝方、第一位皇妃の宮から使いがあり来訪の予告があったのは確かだ。こちらの予定を無視して午後の二時に面会指定があった。
「なんでヤスミン様でなくて……」
アセナはちらりと部屋の中央に目をやった。
アスランが座り心地の良いヘマント様式の長椅子に寝そべり寛いでいる。
「陛下がいらしてるの?」
「何故でしょう? 今日の来宮のご連絡、外廷からはいただいておりません。リボルにはわかりかねます」
前触れなしで後宮を訪れるなどは通例ではありえないはずだった。
ほんの数分前のことである。
ヤスミンの来室予告時間ちょうどに来訪者があり、静々とリボルが戸を開けるとするりと無遠慮に入ってきたのが……この後宮の主であった。
アセナとリボルはアスランの姿に冷や汗をかいた。
第一位皇妃に弱味を握られないように細心の注意と準備を以って迎えられるように、朝から全力で行っていた準備が終わった頃合であった。結果的に問題なく皇帝を迎え入れることが出来たのだが。
あやうく不測の事態も起こりえる状況に陥るところで間にあった。ギリギリだ。
連絡なしの渡りというのは迎え入れるほうには大変な負担である。事前連絡は必須だ。
リボルは首をかしげながらも、ポンと手を叩き、中年太りなのかホルモン不足ゆえの肥満なのか大きく育った腹をぶるると揺らした。
「でもそれだけアセナ様にお会いになりたかったという事でしょう。五人の皇妃で一番の御寵愛を賜っていらっしゃる。めでたいことではありませんか」
「わぁ前向きねぇ。あんたのそういうところ嫌いじゃないよ」
どんなときでも変わらないリボルである。