きみに光を。あなたに愛を。~異世界後宮譚~
第18話(1):高慢と嫉妬。
アセナはアスランの醸し出す甘い空気に耐えられなかった。
とても居心地が悪い。
こんなときはどうしたらよいか、経験の無いアセナには分からなかった。
この落ち着かない気持ちをごまかそうと、うつむきながら口を開いた。
「一つ、質問をお許しいただけますか?」
「あぁ。俺で答える事ができることなら」
幼い頃から賢者ヘダーヤトの教育を受けていたアスランは博学であり、アセナは感心することばかりである。
問えば、大抵は納得のいく返事がくる。
アセナは姿勢を正し座りなおすとアスランを正面に見据えた。
「陛下やヘダーヤト先生のおっしゃった“先祖がえり”というのは何のことなのでしょうか」
「まだ言ってなかったか」
アスランはアセナの瞳を覗き込む。
「パシャ帝国の初代皇帝アスラン一世を知っているだろう? この国を造った偉大な皇帝だ。アスラン一世はウダでいう『太陽の子』だ。以来、帝室では“先祖がえり”という隠し言葉で『太陽の子』を呼び重用する慣わしがあるのだ。男子であるならば重臣として女子であるならば妃としてな」
「え、あの賢帝が??」
初代皇帝アスラン一世は小国であったパシャを広大な領土と属国を従える帝国にまで発展させたこの国の建国の英雄だ。学のないアセナでも知っている。
だが『太陽の子』であったことは初耳である。
「あまり公になってはいないが。確かなことだ」
「『太陽の子』はウダ族独特のものであると思っておりました。パシャ帝室にもいらしたなんて思いもよりませんでした」
「違うぞ、アセナ。『太陽の子』はウダだけのものだ」
「……賢帝にウダの血が入っていたということですか?」
「そうだ。アスラン一世の生母はウダから嫁いできた者、それもお前と同じ『太陽の子』だ」
アセナにとって初めて知る事だった。
ウダの郷に居る時も一度も耳にしたことはない。
おしゃべりな郷の古老が知っていて語らないということはありえない。
つまり後世のウダの郷にはその事実は一切伝わっていないということになる。この強大なパシャを築いた皇帝の生母ともなれば、一族上げて永久に称える事であるはずだ。
あえて伝えなかったということは、当時のウダにとってパシャの皇帝の生母は忌むべき存在であったということなのか。
アセナはおののいた。
「それで私を皇妃に……」
「理由はそれだけではないぞ。お前は忘れてしまっているだろうが、俺は……」
「少々お待ちになってください! どうか! どうか!」
突然、甲高い声が響いた。
とても居心地が悪い。
こんなときはどうしたらよいか、経験の無いアセナには分からなかった。
この落ち着かない気持ちをごまかそうと、うつむきながら口を開いた。
「一つ、質問をお許しいただけますか?」
「あぁ。俺で答える事ができることなら」
幼い頃から賢者ヘダーヤトの教育を受けていたアスランは博学であり、アセナは感心することばかりである。
問えば、大抵は納得のいく返事がくる。
アセナは姿勢を正し座りなおすとアスランを正面に見据えた。
「陛下やヘダーヤト先生のおっしゃった“先祖がえり”というのは何のことなのでしょうか」
「まだ言ってなかったか」
アスランはアセナの瞳を覗き込む。
「パシャ帝国の初代皇帝アスラン一世を知っているだろう? この国を造った偉大な皇帝だ。アスラン一世はウダでいう『太陽の子』だ。以来、帝室では“先祖がえり”という隠し言葉で『太陽の子』を呼び重用する慣わしがあるのだ。男子であるならば重臣として女子であるならば妃としてな」
「え、あの賢帝が??」
初代皇帝アスラン一世は小国であったパシャを広大な領土と属国を従える帝国にまで発展させたこの国の建国の英雄だ。学のないアセナでも知っている。
だが『太陽の子』であったことは初耳である。
「あまり公になってはいないが。確かなことだ」
「『太陽の子』はウダ族独特のものであると思っておりました。パシャ帝室にもいらしたなんて思いもよりませんでした」
「違うぞ、アセナ。『太陽の子』はウダだけのものだ」
「……賢帝にウダの血が入っていたということですか?」
「そうだ。アスラン一世の生母はウダから嫁いできた者、それもお前と同じ『太陽の子』だ」
アセナにとって初めて知る事だった。
ウダの郷に居る時も一度も耳にしたことはない。
おしゃべりな郷の古老が知っていて語らないということはありえない。
つまり後世のウダの郷にはその事実は一切伝わっていないということになる。この強大なパシャを築いた皇帝の生母ともなれば、一族上げて永久に称える事であるはずだ。
あえて伝えなかったということは、当時のウダにとってパシャの皇帝の生母は忌むべき存在であったということなのか。
アセナはおののいた。
「それで私を皇妃に……」
「理由はそれだけではないぞ。お前は忘れてしまっているだろうが、俺は……」
「少々お待ちになってください! どうか! どうか!」
突然、甲高い声が響いた。