きみに光を。あなたに愛を。~異世界後宮譚~
第18話(3):高慢と嫉妬。
ヤスミンは名門貴族が醸し出す独特の高慢な声色と眼差しでアセナを縛り付けた。
「どこぞの賤民が……あぁ山深い辺境の民、ウダの民であったかのぅ、そんな不確かな出で皇妃になるとは他に類をみないことじゃ。さすがカルロッテ姫の部屋子でおられる。どんな手で陛下を陥れたのじゃ?」
アセナの顔が強張った。
皇妃に昇格することが決まり、同位の無位の妃からは嫌味も暴言も浴びせられていた。
だがヤスミンほどの高位にある者からの、直接的な憎悪は初めてである。
後宮だけでない。
生まれてこの方、これほど自分の生まれを卑下されたことはない。
あまりの侮蔑にアセナは顔色をなくし、怒りに持っていかれそうになるのを必死に堪えた。
(私のこともだけど、カルロッテ様まで卑しめるなんて……許せない)
アセナが抗議しようと口を開きかけた時、視界にヤスミンの後ろで打ち震えているリボルが入った。
アセナと視線が合うとひどく不機嫌そうな顔で「言い返してはなりません」と声を出さず口だけを動かした。
パシャ臣下で最上位にあたる宰相家に反抗すれば、アセナだけでなくアセナの後見のエリテルにまで害が及ぶかもしれない。
ここは耐えるほかない。
「もしや、もうその腹に御子を孕んでおるとかいうのではあるまいな」
リボルと並んで控えていたシャヒーンもありえない光景に声を失っていた。
皇帝の寵妃に何と言う無礼。そしてそれはアセナだけでなく皇帝までも愚弄したも同然だ。
しかしヤスミンは口を止めることはなかった。
「女衒に売られただけある。さすが女郎あがりじゃの。本来なら四人までの皇妃の定めを曲げてまで五人目を設けさせた。見かけは普通の娘であるというのに、なんという手練か」
アセナは震える拳を握り締めた。
(だめ、我慢できない)
口を開きかけて、ふと拳にぬくもりを感じ目線を落とした。アスランの手が添えられている。
アスランは首を振り、
「いい加減黙れ、ヤスミン」
冷たく低く言い放った。
静かだが一切の反論は許さない、そんな厳しさがあった。
一気に沈黙が訪れる。
ヤスミンは沈黙を裂き典雅な微笑みを浮かべ、アスランの足元に跪いた。
「お久しゅうございます。皇帝陛下。いいえ、我が夫君」
「どこぞの賤民が……あぁ山深い辺境の民、ウダの民であったかのぅ、そんな不確かな出で皇妃になるとは他に類をみないことじゃ。さすがカルロッテ姫の部屋子でおられる。どんな手で陛下を陥れたのじゃ?」
アセナの顔が強張った。
皇妃に昇格することが決まり、同位の無位の妃からは嫌味も暴言も浴びせられていた。
だがヤスミンほどの高位にある者からの、直接的な憎悪は初めてである。
後宮だけでない。
生まれてこの方、これほど自分の生まれを卑下されたことはない。
あまりの侮蔑にアセナは顔色をなくし、怒りに持っていかれそうになるのを必死に堪えた。
(私のこともだけど、カルロッテ様まで卑しめるなんて……許せない)
アセナが抗議しようと口を開きかけた時、視界にヤスミンの後ろで打ち震えているリボルが入った。
アセナと視線が合うとひどく不機嫌そうな顔で「言い返してはなりません」と声を出さず口だけを動かした。
パシャ臣下で最上位にあたる宰相家に反抗すれば、アセナだけでなくアセナの後見のエリテルにまで害が及ぶかもしれない。
ここは耐えるほかない。
「もしや、もうその腹に御子を孕んでおるとかいうのではあるまいな」
リボルと並んで控えていたシャヒーンもありえない光景に声を失っていた。
皇帝の寵妃に何と言う無礼。そしてそれはアセナだけでなく皇帝までも愚弄したも同然だ。
しかしヤスミンは口を止めることはなかった。
「女衒に売られただけある。さすが女郎あがりじゃの。本来なら四人までの皇妃の定めを曲げてまで五人目を設けさせた。見かけは普通の娘であるというのに、なんという手練か」
アセナは震える拳を握り締めた。
(だめ、我慢できない)
口を開きかけて、ふと拳にぬくもりを感じ目線を落とした。アスランの手が添えられている。
アスランは首を振り、
「いい加減黙れ、ヤスミン」
冷たく低く言い放った。
静かだが一切の反論は許さない、そんな厳しさがあった。
一気に沈黙が訪れる。
ヤスミンは沈黙を裂き典雅な微笑みを浮かべ、アスランの足元に跪いた。
「お久しゅうございます。皇帝陛下。いいえ、我が夫君」