きみに光を。あなたに愛を。~異世界後宮譚~
第19話(1):陰鬱な想い。
「……この宮に何の用だ?」
アスランは足元に蹲るヤスミンに高圧的で体温を感じさせない声で問いただした。
その瞳にさげすみと怒りが入り混じった光を宿し、周囲の者は苛烈さに立ちすくむ。
只一人ヤスミンだけを除いて。
第一位皇妃は満面に喜色を湛え、
「この宮の新しい主殿と新しい皇妃に挨拶に参りました。まさかここで珍しい御方とお会いできるとは思いませんでしたが。この雨も吉兆だったということでございましょうね」
ねっとりと嫌味をこめて言った。
夫であり息子の父親であるアスランと直々に顔を合わせるのは二月ぶりだった。
変わらない夫の凛々しく精悍な姿にときめきも覚える。が、その喜びを覆すほどの腹の底からふつふつとわきあがる強烈な感情に身を囚われていた。
(私には決して許されぬというのに。何故、あの蛮族の娘には未だ伽もなしに御心をお許しになられるのじゃ)
賤民出身皇妃との睦まじい様子はヤスミンをその感情――激しい嫉妬に浸らせるには充分であった。
「ヤスミン。お前のその傲慢さは目に余る」
「何とおかしなことをおっしゃられますか。陛下や私と下賎の民とでは口を利くことすら許されぬ格の差がございます。どれほど時が過ぎようが変わることはありませぬ。ゆえにそれ相応の対応をとったまでのこと」
「……聞く耳を持たぬというのか」
アスランはもう何の興味もない表情でヤスミンを一瞥する。
アセナの額に口付けし「先約が片付くまで向こうへ行っておく」と言い残すと、窓際に置かれた背もたれと肘掛のない寝椅子へ移動した。
アスランは足元に蹲るヤスミンに高圧的で体温を感じさせない声で問いただした。
その瞳にさげすみと怒りが入り混じった光を宿し、周囲の者は苛烈さに立ちすくむ。
只一人ヤスミンだけを除いて。
第一位皇妃は満面に喜色を湛え、
「この宮の新しい主殿と新しい皇妃に挨拶に参りました。まさかここで珍しい御方とお会いできるとは思いませんでしたが。この雨も吉兆だったということでございましょうね」
ねっとりと嫌味をこめて言った。
夫であり息子の父親であるアスランと直々に顔を合わせるのは二月ぶりだった。
変わらない夫の凛々しく精悍な姿にときめきも覚える。が、その喜びを覆すほどの腹の底からふつふつとわきあがる強烈な感情に身を囚われていた。
(私には決して許されぬというのに。何故、あの蛮族の娘には未だ伽もなしに御心をお許しになられるのじゃ)
賤民出身皇妃との睦まじい様子はヤスミンをその感情――激しい嫉妬に浸らせるには充分であった。
「ヤスミン。お前のその傲慢さは目に余る」
「何とおかしなことをおっしゃられますか。陛下や私と下賎の民とでは口を利くことすら許されぬ格の差がございます。どれほど時が過ぎようが変わることはありませぬ。ゆえにそれ相応の対応をとったまでのこと」
「……聞く耳を持たぬというのか」
アスランはもう何の興味もない表情でヤスミンを一瞥する。
アセナの額に口付けし「先約が片付くまで向こうへ行っておく」と言い残すと、窓際に置かれた背もたれと肘掛のない寝椅子へ移動した。