きみに光を。あなたに愛を。~異世界後宮譚~

第19話(3):陰鬱な想い。

「その(まなこ)で魅惑したのじゃな、陛下を。何も知らぬ風でさすがウダじゃ。(おのこ)を手玉に取る術は心得ているとみえる。貧民は生きるために何でもするとは真のようじゃのぅ」
「ヤスミン様、そのような事は!」

 アセナは声を荒げた。

「ご訂正くださいませ。私を貶めるのはまだしも、ウダの民を悪しくおっしゃるのは容認できかねます」
「この私に口答えをするというのか? 蛮族が逆らうではないわ。たかだか“先祖がえり”如きで陛下の御寵愛を得たと驕り、さらには皇妃を望むとは。身のほどを(わきま)えよ、アセナ」

 ヤスミンは目を細め、

「皇妃を辞退いたせ。今ここで」
「何をおっしゃって……」

 アセナは声を失った。
 
 学もなく育ちの悪い自分が皇妃になるなど相応しくないというのは重々承知している。
 自分の望みは無位として平穏無事に過ごすことだ。
 この状況も自ら希望したわけではない。

 が、この後宮の主の意向に否と言うことなどできるはずもない。この国の民で皇帝の意に背く者が存在していようか。

「私が皇妃に相応しくない……そのような事、自分でも分かっております。けれども辞するなども出来かねます」
「これほど言うても分からぬのか。ウダの小娘。賢いところもあるのではと思うておったが、幻だったようじゃのぅ」

 ヤスミンは自らの侍従宦官を呼び、煙草の準備をさせる。優美な手つきで煙管を持ち上げ、ゆるゆると紫煙をくゆらせた。

「陛下にはもう御子がいらっしゃる。次期皇太子は我が子ファフリじゃ。そなたが皇妃になる意味もない。お手が付く前に去れと申しておるのじゃ」
「それを決めるのはヤスミン様ではございません」

 アセナは語尾を強め言った。

「陛下が辞せよとおっしゃるまで決して辞しません。五人目の皇妃は私ですから」
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