きみに光を。あなたに愛を。~異世界後宮譚~
第20話:御心のままに(3)
典雅の塊といってもいい後ろ姿を見送りながら、アセナは先ほどまでのやり取りを反芻していた。
アセナは今日のヤスミンを垣間見、アスランとのやり取りを耳にし、確信した。
ヤスミンは自分に何一つ感情を持たない男を想っている。心の底から愛している。子を生んだとしても一度も顧みてくれない人を。
四人いる皇妃、他の皇妃は他国の王族出身の姫。
この国の筆頭臣下であり帝室に次ぐ格式の高い家門出身であったとしても、端から適うはずもない。
生んだ子が皇子でありようやく同じ地位まで上れたのだ。
それなのに、パシャ出身の辺境の民がさらっと皇妃になり、しかも夫の関心を一身に受けている。“先祖がえり”というだけで。
名門出身のヤスミンは幼い頃から帝室に嫁ぎ寵愛を得る為の教育と義務を負って生きてきたはずだ。
血もにじむ努力が見目が珍しいだけの女にさらっと浚われる。
命を賭して生んだ子も愛でられない。
どれだけ口惜しいことか。
(ヤスミン様の気持ちも分かるだけに……)
アセナは胸の奥が軋んだ。
隣で悠々と寛ぐアスランを恨みがましく見る。
「アスラン様はひどい御方です」
「そうか?」
「えぇ」
皇帝としては正しい。
後宮を営む上ではアスランの姿勢は正しい。
後宮は内廷といわれるだけあり、政治に対して強い影響力をもつ皇妃の後見たちの代理政治競闘の場だ。
この国を治める皇帝にとって、子を成すことは何よりも優先されるが、後宮においてどの勢力からも中立的立場でいるのは必須だ。
(だけど、男女の仲だし……。好きになってしまったら辛いだけ)
アセナは自嘲した。
アスランは魅力的な異性だ。特にこの閉ざされた後宮においては、宮女にとってはすがるべき唯一の存在だ。
そして間違いなく、アセナはアスランに惹かれていた。
乳香の香りと低く重い声はアセナの心を浮き立たせる。
「アスラン様は本当にひどい御方です」
「くどい。二度も言うな」
アスランは苦笑しサンザシの干し果を口に放り込んだ。
アセナは今日のヤスミンを垣間見、アスランとのやり取りを耳にし、確信した。
ヤスミンは自分に何一つ感情を持たない男を想っている。心の底から愛している。子を生んだとしても一度も顧みてくれない人を。
四人いる皇妃、他の皇妃は他国の王族出身の姫。
この国の筆頭臣下であり帝室に次ぐ格式の高い家門出身であったとしても、端から適うはずもない。
生んだ子が皇子でありようやく同じ地位まで上れたのだ。
それなのに、パシャ出身の辺境の民がさらっと皇妃になり、しかも夫の関心を一身に受けている。“先祖がえり”というだけで。
名門出身のヤスミンは幼い頃から帝室に嫁ぎ寵愛を得る為の教育と義務を負って生きてきたはずだ。
血もにじむ努力が見目が珍しいだけの女にさらっと浚われる。
命を賭して生んだ子も愛でられない。
どれだけ口惜しいことか。
(ヤスミン様の気持ちも分かるだけに……)
アセナは胸の奥が軋んだ。
隣で悠々と寛ぐアスランを恨みがましく見る。
「アスラン様はひどい御方です」
「そうか?」
「えぇ」
皇帝としては正しい。
後宮を営む上ではアスランの姿勢は正しい。
後宮は内廷といわれるだけあり、政治に対して強い影響力をもつ皇妃の後見たちの代理政治競闘の場だ。
この国を治める皇帝にとって、子を成すことは何よりも優先されるが、後宮においてどの勢力からも中立的立場でいるのは必須だ。
(だけど、男女の仲だし……。好きになってしまったら辛いだけ)
アセナは自嘲した。
アスランは魅力的な異性だ。特にこの閉ざされた後宮においては、宮女にとってはすがるべき唯一の存在だ。
そして間違いなく、アセナはアスランに惹かれていた。
乳香の香りと低く重い声はアセナの心を浮き立たせる。
「アスラン様は本当にひどい御方です」
「くどい。二度も言うな」
アスランは苦笑しサンザシの干し果を口に放り込んだ。