きみに光を。あなたに愛を。~異世界後宮譚~

第22話(2):謀は密なるを良しとす。

「カルロッテ皇妃様とアセナ皇妃様の宮外療養を、後宮の規約を不意にしてまでお許しになられましたのも、そのためでしたか」とカルネウスは苦々しく応える。

「おかしなことを言う。療養を願い出た妃に慈悲を与えるのは夫として当たり前だろう?」

 アスランは意味深に眉を上げた。
 言葉のみで聞けば素晴らしい配慮であるといえる。だが寵妃を心から慮って許可を与えたのではない。
 これから実行する謀の妨げにならないように“こちらの不利にならぬよう一片でも傷つくことのないように”排しただけだとカルネウスは理解した。

 帝位を継ぐ以前の皇子時代から使えている主である。
 カルネウスは誰よりも近くでアスランを見てきた。
 この国の皇帝アスランは情が厚く、一度でも接するとその秀麗な容姿と豪胆な心意気に魅了される者も多い。

 しかし決して表には出さないが冷酷極まりない一面も持っている。
 アスランの定める基準から外れるものは容赦なく切り落とす。例えそれが自らの血縁者や歴代仕える忠臣であろうとも。

 即位して四年。後宮の宮女に興味も持たず、政務に支障の出る相手にのみ義務として渡ってきたアスランが満を持して動き始めたのだ。

「ヴィレッドブレードの姫であるカルロッテ皇妃様はまだしも、アセナ皇妃様は平民出身でいらっしゃいます。そこまで御執心なさる理由がありましょうか」
「アセナは全てにおいて理想だ。用いらぬ理由がどこにある」

 アスランは筆をおき、立ち上がると背後の窓から外を眺めた。

「なぁカルネウスよ。俺が諾といっているんだ。自分の意で自由に出来ぬのなら後宮なんぞ必要ないと思わんか?」
「左様でございますが」

 この国の宰相を輩出する家柄の娘よりも辺境の民ウダの娘を重用する。充分に準備し意図があってのことだが、国の乱れにも繋がりかねない。

 カルネウスは心底アセナに同情した。
 無位の目立たなかった娘が他人の意に巻き込まれ振り回されていくのは忍びないが、アスランがこうと決めたのなら仕方が無い。

「お止めしてもお聞きくださらないでしょうから、この件に関してはもう申しません。御心のままになさるとよろしいでしょう」
「さすがだな、カルネウス。ところで俺も妃の療養に同行したいのだが?」
「陛下がご自身でお決めになられたことといえど……」

 カルネウスは自身の机に戻り、裁可待ちの書類を山のように抱えてきてはアスランの机に積み上げると、

「こちらを処理していただかないと政が動きません。よろしいでしょうか? 皇帝陛下」

 有無を言わせぬ悪魔の如く愛想のいい笑顔を浮かべた。さすがのアスランも苦笑するほかなかった。
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