記憶の中の溺愛彼氏
翔君は二人の思い出の場所だからと、ホテルの高層階にあるレストランに連れて来てくれた。

「予約していた宇都宮です。」
そうスタッフに言うと、奥の予約席へと案内された。
夜景を見ながら食事をする場所なのは分かっていたけれど、周りの席と離れているせいか二人きりの空間のように天井から足下まで広がる夜景がキラキラと煌めいて、ロマンチックな雰囲気を醸し出す。

「綺麗…」
夜景を見ながら、そう言うと翔君は私の顔を満足そうに眺めていた。

…見られてると居心地悪い
コース料理を順番に出され、ナイフとフォークの組み合わせはこれでよかったのかな?と思いながら美味しそうな料理を平らげる。

翔君はいつのまにこんな風に変わったのかなって思った。目の前の男の人は知らない人で、今の私には全然似つかわしくない。

「…美味しくなかった?」
翔君がそう言って私に尋ねた。
「いえ、おいしいです!すごく。」
「よかった。記念日に香奈とよく来てたんだ。」
「そうなんだ…」
「思い出の場所で、少しでも記憶が戻る手伝いができればと思ったんだ。」
「ですね…ハハ」

…緊張してどんな味だったのか思い出せない

「…いきなり思い出せって言われても困るか…」
食後のコーヒーを飲みながら、翔君は自分に言い聞かせるように呟いた。
「あの、他にはどんな思い出の場所があるんですか?」
私が尋ねると「そうだな…」と翔君は考え込んだ。
「…思い出の場所か…俺が忙しいこともあって、二人の時は部屋でのんびりする事が多かったよ。他は買い物や食事をしたり、休みが長い時は少し遠出して二人で旅行にいったな…」
「二人で旅行…」

お付き合いしてるんだから、当たり前なのかもしれないけど、やっぱりそう言う関係はあったのだろう。

…でも、どうしよう。緑川先輩のことを話さないといけないんだけど…





< 15 / 66 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop