記憶の中の溺愛彼氏
席に戻ると緑川先輩は電話をしている最中だった。
「…今日は会議があるから、いつもより遅くなるよ…」
そんな声が聞こえてきた。

私が席に座ると、「じゃあ、また連絡入れるから」と電話を切ったようだった。

デザートも食べ終わって、一旦落ち着いたけど、さっきの緑川先輩の会話が気になってしまう。

「先輩、さっきの電話…もしかして今日は会議って、これから仕事があるのに会ってくれたんですか?」
「…まあ、香奈ちゃんとのデートの為だからね」

ニッコリと笑っているものの、バツの悪そうな感じで、私に聞かれてはいけなかったようだ。

それでも緑川先輩は気にしてない様子で、私の高校の頃の話を織り交ぜながら、あの頃は可愛かったとか、本当に好きだと思ったのは香奈ちゃんだけだったとか、色々と口説いてきた。

最初はカッコいい先輩で初恋の人だから、会えることは嬉しかったし、自分の好きな気持ちが先輩にあるのなら、少しずつ付き合い始めるのもいいのかなと思ったけど…

でもこうして二人で会ってみると、記憶を無くす前の先輩とはやはり違うんだって感じた。

先輩自身を見ないといけないのに、記憶に縛られすぎて何も見えていなかった。


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