記憶の中の溺愛彼氏
私は退院したばかりなので、親が心配してるからと先輩に伝えた。

「今日は貴重な時間を、先輩といれて楽しかったです。時間なので私、そろそろ帰りますね!」

私がそう言って立ち上がると、少し不満げな顔をした先輩が
「まだ一緒にいたいんだけど…」
と、私の方に両手を伸ばして手全体を包み込むように握りしめてきた。
積極的な態度に私が動揺すると先輩はその反応を楽しむようにさらに親指で優しく撫でる。

「俺は香奈ちゃんと、もっと深く知り合いたいし、まだ帰ってほしくないな…」

じっとこっちを見ながら、意味深な言葉で私を誘っているようだった。

手の甲を撫でられたまま、固まるしかない私…

ガタンっと、近くで大きく椅子が倒れる音がしたと思ったら、私のすぐ横に翔君がやってきて、先輩の手を払い除けた。

「俺の香奈を惑わさないでくれませんか?」

翔君は牽制するように先輩を睨みつけた。

「誰!?」

「…私の現在の彼氏だそうです」

「はあ?じゃあ、なんで俺に会いたいってなんて言って、期待させんだよっ!」

先輩は怒ってそのまま店を出て行ってしまった。

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