記憶の中の溺愛彼氏
残された私と翔君は、バツが悪い気持ちでお互いを見つめあった。

「…出ようか」
「………」

とりあえずお店から出てきて、先に行く翔君の後に続いた。

沈黙のまま歩かれると翔君が怒っているみたいで、私はどうしたらいいのか分からなかった。

駐車していた翔君の車に乗せてもらい、家まで送ってもらう。
ドアを閉めてシートベルトをしたところで翔君が「邪魔して悪かった」と謝ってくれた。

「俺は香奈の記憶がないなら、元に戻るまでは見守ろうって思ってた…最初は…」

「…最初?」

「ああ、香奈と付き合ってた男と会うって、美亜から聞くまでは」

「………」

「それに俺との事を忘れてるなら、それでもいいと思ったんだ。俺がまた香奈にもう一度振り向いてもらえるよう、努力すればいいからって」

翔君は香奈の気持ちを考えてなかったと付け加えた。

「香奈が記憶をなくして高校の頃の気持ちのままなら、当時付き合ってた彼氏に気持ちが向かうのは当然だよ…」.

まるで翔君は自分に言い聞かせてるようだった。

私が緑川先輩と会ったことで翔君を傷つけてしまった…


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