記憶の中の溺愛彼氏
「部屋で待たせてもらったよ」

部屋のドアをあけるなり、翔君はいつものように本棚を眺めながら私の帰りを待っていた。

「お早いお帰りね、宇都宮社長」
ニッコリとOL風に挨拶をする。

「…帰宅してまで社長はよしてくれよ」
溜息混じりに、翔君は答えた。

「なんか、会社で聞いたんだけど、今度どっかの御曹司と対談あるって本当?」
「ああ、20、30代の女性読者をターゲットに対談を企画しているそうだ。」
「そうなんだ。じゃあ、また翔君目当てのファンが増えるんだ…」
ただでさえ、会社内に社長を崇拝する女子社員が沢山いるのに、この対談後はさらに増えることだろう。
「香奈はファンが増えるとどんな気持ち?」
「ん…なんか複雑かもね」
「どうして?」
「だって、翔君が遠い存在になったら困るでしょ?…以前の自分はどうなんだか知らないけど、彼氏がモテるのはいい気持ちはしないはず。今はカレカノの関係じゃないとしても、こうして会ってるわけだし、無関係ではないでしょ?」

「じゃあ、香奈の記憶がない今は、どんな関係にしようか?」

意味深な眼差しで私をじっと見つめながら、翔君はそう聞いてきた。

「ど、どんなって?」
翔君の言葉にドキドキしながら目が離せない。

「付き合ってたわけだから、俺はどんな香奈も受け入れるよ。香奈の心が高校の頃のままなら、あの頃の香奈と付き合うことができる訳だし…」
そういうと、翔君は私の心臓をバクバクさせながら、満足そうな笑みを浮かべる。

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