記憶の中の溺愛彼氏
車の中で暗い顔をしていたからか、翔くんはすぐに気づいた。

「どうした?」

「………」

私は専務の言葉が頭から離れなかった。

自分よりも翔君に相応しい女性がいるなら、その方がきっといいと思ったから。
ただ、手を引けって、言われるまま言い返せなかった事が悔しかった。

「香奈…?」

心配する翔君の顔を見て、私は少し意地悪を言いたくなった。

「…専務の従姉妹から告白されたんだってね」

私がそう言うと「断ったよ」と翔君は答えた。

「何で、私のせい?」

「…違うよ」

翔君はそう言ったけど、納得できなくて私の言葉は喧嘩ごしになっていく…

「私よりもお似合いなのに何で断ったの?私と付き合ってないから、翔君にはチャンスでしょ?」

「本気でいってる?」

少し怒ったような態度だった。

私はそっぽを向いて、鬱憤を晴らすようにに翔君に言葉をぶつけた。

「今の私は翔君が付き合ってた私じゃないよ。好き合ってた私じゃないし、翔君は誰とでも付き合えるし、好きになれるんだよ…だから!」

言い終わらないうちに、噛み付くように翔君の唇が私の唇に重なった。

怒ったように何度も私の唇を奪っていく。

息が続かなくて苦しくなるたび、翔君とのキスは深く絡み合っていく。

二人だけの時間が止まったみたいだった。

落ち着きを取り戻した時には、翔君は優しく私の髪を撫でていた。

「…落ち着いた?」

大人しくなった私を満足そうに覗き込みながら、翔君はフッと笑った。

「香奈は不安なんだね…」

指摘されてびっくりした。



< 50 / 66 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop