記憶の中の溺愛彼氏
彼女の涙ぐんだ表情は誰もが同情するような状況だった。
私に向かう興味本位の視線と冷たい軽蔑の視線を肌に感じながら、誰にも分かってもらえないだろうし、逃げ出したくなった。

囲まれた人垣が敵だらけに感じて、ストレスを受けたせいか、ズキズキと頭が痛くなった。

「ーー!!」

フラッシュバックのように高校の頃からの忘れてた記憶が、私の頭に浮かんできた。

繋がった記憶…


緑川先輩と自分の別れた原因も思い出した。

…あの頃、付き合い始めた時に、先輩には他校に彼女がいたみたいで、私が先輩を奪ったように噂が流れた。

冷たい視線が今のように私を追い詰めた。

だから、先輩と付き合うのが辛くて、付き合ってすぐに別れた。

翔君は先輩と別れてからはいつも側にいてくれて、愚痴を聞いてくれたり、味方になってくれた。

恋愛対象外だったはずなのに、カッコよく成長して、大人っぽくなっていく翔君と、一緒にいるうちに自然と好きになっていった。

…今では、なくてはならない大事な彼氏…

繋がったジグソーパズルのように記憶がピタッと当てはまる。

私は求めるように翔君の姿を探した。

切羽詰まった私の状況がすぐに分かったのか、翔君は「ちょっと失礼」と割って入り、私の体ごとすっぽり覆うように抱きしめると、彼女の方に向き合った。

「…誤解してると思うけど、香奈は誰かを傷つけるようなことは絶対にしないから。」

「でも!」

「悪いけど、俺が信じるのは香奈の方だから…」

それ以上は何も言わせないように、翔君は強い口調で彼女に伝えて、私と共にその場を離れた。



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