記憶の中の溺愛彼氏

「香奈が無事で本当に良かった…」
軽く抱きしめられて、私の頭に翔君がキスをするがわかった。
心配してくれてたのがすごく伝わってくる。

「…あの」
この状況をどう反応したらいいのか分からなくて、ずっと動かないのが正解なのか、抱きしめられてていいのか…

「ああ…そうだった」
そう言って、やっと私は翔君の抱擁から解放された。

「香奈、俺のことは覚えてる？」
甘い眼差しをこちらに向けられながら、翔君は私に尋ねた。
「はい、宇都宮翔君…です」
「俺達はどんな関係…？」
「お、幼なじみ…」
「…他には？」
「…あの、もしかして…付き合ってますか…？」
私の質問に翔君の唇の端が僅かに上がった。
「…俺達は結婚２年目。まだ小さい2歳の娘がいる夫婦…………というのは冗談！」

えーー！？
と、思わず叫びそうになったけど、冗談でホッとした。
「…俺にめちゃくちゃ愛されてる恋人だよ」
「そ、そうなんだ…」
本人を前にしてハッキリと言うから、返答に困る。樹と美亜の会話からそんな感じがしたけど、やっぱり付き合ってるんだ。

「私達って、いつから付き合ってるんですか…？」
「香奈が大学生で、俺が大学中退して起業した頃かな…」
「え、うそ、翔君って、大学辞めたの！？」
「支援する投資家が現れて、会社を軌道にのせるのに学業との両立は厳しくてね…」
「今は話題の企業ランキング30には入ってるんだぜ！」
樹が、すかさず情報を付け加える
「そうなんだ…」

起業しただとか、投資だとか、話がついてけてない気がする。
二人の話題が最近の会社の近況になり、分からないながらも相槌を打ってニコニコしてた。