愛され秘書の結婚事情*AFTER
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受付から、「とうやあきよ様が一階ロビーにいらしてます」という内線を受け、七緒は「え!」と声を上げ、さらに椅子から立ち上がるほど驚いた。
めずらしく自席にいた悠臣が、「どうしたの」と目を丸くする。
「あの、晶代さんが……。お母様が、一階にいらしてると……」
「え? 母が? 会社に?」
三つの疑問符を並べる悠臣に、七緒は「あの、しかも常務でなく、私をお呼びだそうで……」と続けた。
「は? なんで!?」
そこで悠臣は憤然と立ち上がり、いきなりジャケットを羽織って部屋を出て行こうとした。
慌てて七緒もその後に続き、「常務、どうされるおつもりですか」と上司の背中に声を掛けた。
「そりゃ、直接会って文句を言うのさ。今はまだ業務時間内なのに、僕の秘書を個人的に呼びつけるなんて、一体どういう神経しているんだって」
「そんな、喧嘩腰になるのはおやめ下さい。何か急用かもしれませんし……」
「それにしたって、アポ無しでいきなりってのも非常識だし、僕でなく君を指名ってのも非常識だ。あとあの人の辞書にはね、急用って言葉はないから。そんな一般の勤め人みたいな感覚で生きてないから」
「常務……」
本当は仲が良いくせに、会うたびに口喧嘩をせずにおれないらしい桐矢親子に、この三ヶ月ですっかり慣れてしまった七緒は、諦観に似た溜め息をついた。
受付から、「とうやあきよ様が一階ロビーにいらしてます」という内線を受け、七緒は「え!」と声を上げ、さらに椅子から立ち上がるほど驚いた。
めずらしく自席にいた悠臣が、「どうしたの」と目を丸くする。
「あの、晶代さんが……。お母様が、一階にいらしてると……」
「え? 母が? 会社に?」
三つの疑問符を並べる悠臣に、七緒は「あの、しかも常務でなく、私をお呼びだそうで……」と続けた。
「は? なんで!?」
そこで悠臣は憤然と立ち上がり、いきなりジャケットを羽織って部屋を出て行こうとした。
慌てて七緒もその後に続き、「常務、どうされるおつもりですか」と上司の背中に声を掛けた。
「そりゃ、直接会って文句を言うのさ。今はまだ業務時間内なのに、僕の秘書を個人的に呼びつけるなんて、一体どういう神経しているんだって」
「そんな、喧嘩腰になるのはおやめ下さい。何か急用かもしれませんし……」
「それにしたって、アポ無しでいきなりってのも非常識だし、僕でなく君を指名ってのも非常識だ。あとあの人の辞書にはね、急用って言葉はないから。そんな一般の勤め人みたいな感覚で生きてないから」
「常務……」
本当は仲が良いくせに、会うたびに口喧嘩をせずにおれないらしい桐矢親子に、この三ヶ月ですっかり慣れてしまった七緒は、諦観に似た溜め息をついた。