愛され秘書の結婚事情*AFTER
 悠臣はその後姿を見送った後、恨みのこもった目で母親を見つめた。

「……今日中に返してくれるんでしょうね」

「七緒さんを? さぁ~それは約束しかねるわね」

「午前零時までに帰さないというなら、たとえ会長命令でも、彼女は渡せません」

 その言葉に晶代はフフッと楽しげに笑い、「まるでシンデレラね。その台詞を言うのは魔法使いのはずだけど、ここでは王子が早く帰って来いと催促するのね」と呟いた。

「……お母さん」

「わかった、わかったわよ。ちゃんと十二時前に返すったら。……ったく、心の狭い男ね。そんなに独占欲が強いと、そのうち七緒さんに振られるわよ?」

 目の前の虫を払うように手を振り、晶代は言った。

 さらに五分後。

 悠臣に玄関ロビーで見送られながら、七緒は晶代が乗ってきたハイヤーに乗り込み、将来の姑と共に夜の街へと消えた。
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