愛され秘書の結婚事情*AFTER
*****
翌日。
社員食堂の一角に、一際賑やかで一際目立つ集団がいた。
所属部署は違うものの、全員が勤続十年を越えるベテランばかり。
下は三十ウン歳、上は……(自主規制)歳の、サブマリンの“お姉さま”方だ。
「この会社に関わる噂なら、全て掌握している」ことが誇りの彼女達は、テーブルの上で額を寄せ合い、会議さながらの真面目な口調で話し合っていた。
「ちょっと、聞いた? 昨日の……」
「ああ、桐矢常務のお母様が、佐々田さんを訪ねて来たって話でしょ」
「そうそう。ていうか、なんで息子でなくその秘書に会いに来るわけ?」
「うん。それでね、私ちょっと推理してみたのよ」
「どんな推理?」
「うん。ホラ、先月だっけ、先々月だっけ。佐々田さんのキス事件があったじゃない」
「あー、あったねー」
「私、現場にいたのよ! メッチャ驚いたわ~~~」
「うん、でさ。秘書課の子の話によると、佐々田さん、本当にあの事でショックを受けてたみたいで」
「え、そうなの?」
「うん。だって、医務室でうがいと歯磨きしてたそうだし」
「えっ、ホント!?」
「そりゃマジで嫌がってるわ」
「その後で、桐矢常務が佐々田さんをどこかに連れて行ったじゃない?」
「ああ。なんかちょっと怒った顔で、会社で彼女の手を引っ張ってたって」
「そう。それらの情報を総合して、考えたのよ、私」
「うんうん」
「ズバリ、あのイケメン君を紹介したのは、桐矢常務のお母様だった! ってことよ」
皆にそう力説したのは、総務のゴッドマザーと称される田畠加代(たばたかよ)だ。大学時代、ミステリ研究会にいたという彼女は、その想像力をフルに働かせて、言った。
「おそらくお金持ちの友人から、うちの息子にいい相手はいないかしら。遊び人でフラフラしているから、真面目なお嬢さんがいいんだけど、って相談されて。それで、自分の息子の秘書をしている佐々田さんを紹介したのよ。で、もともと女癖の悪いお坊っちゃまだから、佐々田さんと婚約後に浮気して。それが佐々田さんにバレて。仲直りしようと会いに来たけど、冷たくあしらわれて。強引にキスしたけど、やっぱり許してもらえなくて。遊び人の坊々で苦労している、可哀想な秘書を見かねて、常務が彼女を連れて、お母様に直接抗議しに行ったわけよ。でもお母様としては、佐々田さんの方に折れて欲しいから、昨日わざわざ自分から会社に赴き、彼女を説得するために連れ出した、と。どうよ、この仮説」
途端、その場にいた全員が「おぉ……」と感嘆の声を上げた。
翌日。
社員食堂の一角に、一際賑やかで一際目立つ集団がいた。
所属部署は違うものの、全員が勤続十年を越えるベテランばかり。
下は三十ウン歳、上は……(自主規制)歳の、サブマリンの“お姉さま”方だ。
「この会社に関わる噂なら、全て掌握している」ことが誇りの彼女達は、テーブルの上で額を寄せ合い、会議さながらの真面目な口調で話し合っていた。
「ちょっと、聞いた? 昨日の……」
「ああ、桐矢常務のお母様が、佐々田さんを訪ねて来たって話でしょ」
「そうそう。ていうか、なんで息子でなくその秘書に会いに来るわけ?」
「うん。それでね、私ちょっと推理してみたのよ」
「どんな推理?」
「うん。ホラ、先月だっけ、先々月だっけ。佐々田さんのキス事件があったじゃない」
「あー、あったねー」
「私、現場にいたのよ! メッチャ驚いたわ~~~」
「うん、でさ。秘書課の子の話によると、佐々田さん、本当にあの事でショックを受けてたみたいで」
「え、そうなの?」
「うん。だって、医務室でうがいと歯磨きしてたそうだし」
「えっ、ホント!?」
「そりゃマジで嫌がってるわ」
「その後で、桐矢常務が佐々田さんをどこかに連れて行ったじゃない?」
「ああ。なんかちょっと怒った顔で、会社で彼女の手を引っ張ってたって」
「そう。それらの情報を総合して、考えたのよ、私」
「うんうん」
「ズバリ、あのイケメン君を紹介したのは、桐矢常務のお母様だった! ってことよ」
皆にそう力説したのは、総務のゴッドマザーと称される田畠加代(たばたかよ)だ。大学時代、ミステリ研究会にいたという彼女は、その想像力をフルに働かせて、言った。
「おそらくお金持ちの友人から、うちの息子にいい相手はいないかしら。遊び人でフラフラしているから、真面目なお嬢さんがいいんだけど、って相談されて。それで、自分の息子の秘書をしている佐々田さんを紹介したのよ。で、もともと女癖の悪いお坊っちゃまだから、佐々田さんと婚約後に浮気して。それが佐々田さんにバレて。仲直りしようと会いに来たけど、冷たくあしらわれて。強引にキスしたけど、やっぱり許してもらえなくて。遊び人の坊々で苦労している、可哀想な秘書を見かねて、常務が彼女を連れて、お母様に直接抗議しに行ったわけよ。でもお母様としては、佐々田さんの方に折れて欲しいから、昨日わざわざ自分から会社に赴き、彼女を説得するために連れ出した、と。どうよ、この仮説」
途端、その場にいた全員が「おぉ……」と感嘆の声を上げた。