君と一生分の幸せを
【 日奈side.】
さっき離したばっかりの手が熱い。
いや、全身が熱い。
冬なのに変な感じだ。
「ちょっと日奈~!」
靴箱で靴を履き替えていると、突然後ろからドンッと押された。
危うくバランスを崩すところだったが、なんとか持ちこたえる。
私を押した犯人は学校で一番仲がいい、深谷 瑞希(フカガイ ミズキ)だった。
「瑞希、危ないんだからやめてよ……」
私が呆れたように言うと、瑞希は「それよりっ」と目を輝かせている。
「さっき、道瀬先輩と手繋いでたでしょ⁈」
瑞希のその一言で、周りの女子たちがドッと寄ってくる。
「だよねっ。どういう関係なの⁈」
「もしかして付き合ってたの⁈ あの道瀬先輩と!」
「双葉ちゃんと道瀬先輩、めちゃくちゃお似合いだよっ⁉」
「いいなぁ、私も手繋ぎた~い!」
聞こえてくる声は様々だが、私が気になったのは……
道瀬〝先輩〟……?
「あ、あの人って先輩だったの⁈」
私が叫ぶと、なぜか辺りはシンと静まり返った。
そして、瑞希が「そこぉ⁈」とツッコんでみんなが笑い出す。
「瑞希、どうしよう……。私、先輩に対してタメ口……しかもクンづけで呼んじゃったし……」
「何それ、羨ましっ。仲いいアピールかよぉ」
瑞希がふざけて言うが、私の心には焦りが募っていた。
「そういうことじゃないのっ。『後輩のくせになんだよコイツ』とか思われちゃったかな……? 怒らせちゃったかな……?」
「まさか」と瑞希は言うが、私はどうも納得できなくて。
ホームルームまでまだ時間があるから、今から謝りに行ったほうがいいかもしれない。
今にも走り出そうとする私を、瑞希が止めた。
「待ってよ日奈。その様子じゃ付き合ってなさそうね。日奈は……道瀬先輩のこと好きなの?」
「好き……って言われても、今日初めて会ったし。優しい人ではあったけど……」
「初対面だったの⁈ ……まぁ、まだ分かんないなら行かないほうがいいと思うよ? 今は先輩たちも日奈とのことで騒いでるだろうし、今行ってその騒ぎを大きくしちゃったら、おさまるのが大変になっちゃう。だから、行くならまた今度。それか偶然会った時。……分かった?」
「……うん。分かった」
瑞希は私が頷いたのを見ると、そっと微笑んでくれた。
瑞希は優しい。誰よりも優しい。私の支えになってくれる人。そして、恋愛のスペシャリストとして尊敬している。
スタイルが良く、パッと花が咲いたように笑う瑞希は、男子からも女子からもモテモテだ。
付き合った男子の数は、両手でもおさまりきらないらしい。
そんな瑞希を「たらし」と呼ぶ人もいるが、そんなことはないと思う。
瑞希はちょっと理想が高いから、付き合っても合わなかったらすぐ別れちゃうだけで……。
そんなことを考えていると、あっという間に予鈴が鳴った。
「やばっ、急ごう!」
今度は瑞希に手を引かれて、教室へと走る。