いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
「もうやめる?」
「……え?」
「気持ちいーね。撫でられんのとか、どんだけぶり」
寂しそうな、どこか縋るような声に言葉を詰まらせていると「なーんてね」と、陽気な声が次には聞こえてきた。
見れば触れ合える距離にいた坪井はすでに人一人分ほどの距離をとっている。
「あー、派手にバラしといてよかった」
「派手に?って何を?」
すっかり空気を変えてしまった。
突然切り替わる声のトーンは、坪井の中でのスイッチなのだろうか。
すぐに聞き返した真衣香を見て坪井はさらりと言った。
「え? お前が俺の彼女だって」
「言ったっけ!?」
驚いて声を張り上げた真衣香を見て坪井は意地悪に口角をあげて楽しそうな声を出す。
「聞こえてるでしょ、普通に俺ら以外にも。同じフロアに二課の他の奴らも一課もいたし。てか社内なんて狭いし明日には知れ渡ってんじゃないかなー、とか」
小野原と話すことで必死だった真衣香は失念していた。
いくらパーテーションで区切られているとはいえ同じ空間だ。
「ご、ごめん! 坪井くん知られたくなかったのに、ごめんなさい」
軽く頭を下げて、顔をあげた真衣香の目には驚き目を見開く坪井の表情
「えー? 知られたくなかったって、どっから出てきたの? 俺言ってないよね?」
「だ、だって言わなくてもいいかって、この間」
真衣香が言うと「いやいや違うから」と坪井は首を振った。
「そんなの、お前の許しが出るんなら隠したいわけないじゃん。 だって、俺基本的に思ったこと言っちゃう人間だし……」
いったん言葉を区切った坪井は、当たり前とでも言わんばかりの口調で続けた――
「まあ、何より虫除けになるでしょ? お前の日常の中で1番多いんじゃないの? 会社がさ、男との接点」