いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
「うん、でも好きだなって思っちゃってるんだよね」
はぁぁ、と。
よく聞こえすぎるほどの、大きな溜息。
続けて「あんた頑固なとこあるからなぁ」と言って。
その後、数秒小さく唸って優里が言う。
「……そりゃ、真衣香初めての彼氏じゃん。比較対象ないし、ああゆう口うまそうなのには丸め込まれそうな気がするよ」
「優里気付いてる? さっきから悪口ばっかり言ってるの」
真衣香が再び睨むと、優里はわかりやすく肩を竦めて「ごめん!」とジェスチャーした。
「でもさ、でもさぁ!心配なのもわかってよー!」
テーブルをドンドンとして優里が言った。
先程から他の客がチラチラと真衣香たちのテーブルに視線を向けているが、優里は気にも止めず感情をぶつける。
それは、ずっと前から真衣香が羨んでいる姿。
優里の声はよく通る。
嘘なくまっすぐに迷いなく、キラキラと踊るような表情を何度真似たいと願っただろうか。
その度に、自分は自分でしかないと叩きつけられてきたものだ。
(羨むばっかりも、自分を嫌うばっかりもなくなる気がしたんだ)
坪井との距離が縮まって、真衣香の世界は確かに輝き出したから。
短期間のうちに、心は走り出していて。
信じられないくらいにたくさんのことが、起こっては、真衣香をまるで羽ばたかせるかのように背中を押した。
まだまだ不安定で未熟な、この恋が、ちゃんと本物に育っていけば。
(私だってちゃんと変われる。 だって今日は、優里になりたいって思って見てない……素直に、素敵だなって思えてる)
やっぱり恋は不思議だ。
もう何度目か、真衣香は思ってしまった。
だって、羨む心に、自分自身の心が痛んでいたこと。
そんなことにまで、今。
気付かせてくれたのだから。
「真衣香聞いてる!?」の、声に真衣香はハッとして、誤魔化すように残りのタマゴサンドを手に持った。
そして、優里を急かす。
「……ね、タマゴサンド食べちゃおうよ。ケーキも食べたいでしょ、時間なくなるよ」
「……ぐぅっ、食べたい。食べよう、この話は一次休戦ね。てか黙ってないでこまめに報告してよ、わかった?真衣香!」
言いながら優里は残りのタマゴサンドに豪快にかぶりつきながら、メニューを横目に見ている。
まだ平日のど真ん中である為、優里も大人しく今日のところは、この話題を終えた。
そう、
今日のところは、追撃を逃れることができそうだ。