いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
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優里とあった夜から数日後のことだった。
朝の日課である掃除を終わらせ、女子トイレに立ち寄った、そんな始業までの僅かな時間だった。
「何か今日南からの事務の人来てるって」
「あ、いつも美人だって男たちが噂してる人でしょ~。咲山さんだよね」
真衣香は、そんな会話を耳にした。
南とは本社から一番近い営業所のことだ。
チラリとその声の方を見れば営業部の女性二人と目が合い、真衣香は軽く会釈した。二人もそれに応え軽い会釈で返してくれる。
そのまま鏡に視線を戻し少しはねた前髪を確認し整えながら、何となく彼女たちの会話を頭の中で繰り返してみた。
(咲山さん……そういえば、入社したときの研修で資料の配付してた人だっけ。たまに総務にも来てくれことあるよね)
けれど総務に顔を出してくれたからと言って、特に深い会話を交わしたことはない。
大体は八木や杉田と言葉を交わしているのを横目に見ているくらいで……。
そんな微かな印象の中でも思い返すと、確かに目を引く綺麗な人だったと真衣香も記憶していた。
なんてことない。記憶の端の綺麗な顔を思い出しながらトイレを出る。
すると、すぐの角で先ほどの二人がまだ話していた。
(さっき挨拶したしなぁ)
そう思い、そのまま通り過ぎようとした真衣香の耳に聞こえた声。