いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました



***

 
「立花?」

 夕方、郵便物や宅配便を各業者から受け取った真衣香は、各部署に郵便物を届けていた。

 その途中、一階の営業部入り口付近で声をかけられた。
 
 相手が誰だかわかっているから、振り返る前からドキドキとして、急いで表情を作ってしまう。

 もちろん、笑顔だ。

「坪井くん、お疲れ様」

「はは、お疲れ。何だろ今日全然会わなかったね、忙しかった?」

 言いながらひょいっと真衣香が手にしていた分厚い封筒を取った。

「あ、やっぱうちのだった。見覚えのある封筒だと思ったんだよね」

「ありがとう、重かったから助かるよ」
 
「うん、で? 今日忙しいの?」
 
 話題が流れていかなかった。

 と、いうことは、真衣香の今日が忙しかったか忙しくなかったかは今の坪井には大事な話題なんだろう。

「ううん。でもそういえば営業部関連の仕事、今日はなかったから。坪井くんには全然会えなかったよね」

 そうは言っても、このところわざと自分から出向くようにしたり、少しでも会えたらいいな。仕事中の坪井を見られたらいいな。 
 そんな不純な動機で動いたりもしてしまっていた。

(我ながらちょっとどうかとも思うけど……)

 じゃあ、今日は違ったのか?

 ――そう、違ったんだ。 明確には、そうなるように動いていた。

「ふーん、そっか」

 坪井が何となく不服そうに聞こえる声で聞こえる声で短く返してきて、けれど。

 何故か続く言葉が出てこない。真衣香は焦りを誤魔化すように、下を向き唇に力を入れた。
 
 実際には数秒程度だったのかもしれないが、真衣香は延々と続いているかのような沈黙に耐える。
 しかしその間、ジッと見つめられているように感じ……。

 その視線の先が、真衣香の、不自然に力む唇に注がれている気がして。
 変な焦りが心を襲った。

「んー、っと。 あのさ、立花。気のせい? 目が合わないんだけど」
「え? き、気のせい……」

 ギクリとしながらも歯切れの悪い返事をしていた、
 そんな真衣香の返事を途切れさせたのは――

「あ。やっと見つけた、涼太」

聞き慣れない、明るい声だった。
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