いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
けれど記憶の端に残る声だった。
『涼太』
それは口にしたことはないけれど、もちろん誰の名前かなんて、知っている。
「……夏美?」
『夏美』
と、声にした。
声色に、なぜ感じるんだろう。
重ねた年月や、真衣香の知らないところで囁きあったであろう景色や、歴史や、深みや。
立ち入れない、厚みを。
知らない空気が一気に真衣香の周辺を囲ってしまったような。
真衣香を弾き出してしまったような。
激しい居心地の悪さ。
「あ、夏美って言った。会社なのに~! なんてね」
「……ったく、お前な」
「ん?? 誰だって? お前?」
「……咲山さん」
ため息をついて、それでも言い直した坪井を見てご満悦と言った表情で、前山は頷きながら答えた。
「はいはい、咲山夏美さんだよ。久しぶりだねぇ元気?」
独特なリズム。だけど二人の距離の近さを感じる。
きっと二人はこんなふうに会話を交わし合い、真衣香の知らない日々を一緒に過ごしてきたんだろう。
さらりと揺れるボリュームのある柔らかな、淡い栗色の髪。
軽く上品に巻かれた毛先と、トップに程よいボリュームを出したハーフアップ。
咲山が言葉を発し肩が動くたびに、こちらにまで、いい香りが漂う。
可愛らしさと、大人っぽさの両方を兼ね備え、同性の真衣香の視線をも奪う。
(意識して見ちゃうと、ほんと綺麗で、ほんと……坪井くんと並んで違和感がないどころか)
ただただ、お似合いでしかない。
自分とは雲泥の差だ。
自虐心いっぱいの胸が苦しさを訴えてくるが、気付かぬふりをして、真衣香が知る限りの咲山を思い出していく。
彼女は、真衣香たちが入社するまでは営業二課に在籍していたと聞くが、その後仕事ぶりを評価され新設された営業所へ異動になったのだという。
二年前の新人研修では『もう引継業務だけだからね、暇だし手伝わされてるんだよ』と。
当時研修を受けていた数名の同期だった人や、坪井が咲山さんと、そんな会話をしていたように思う。
その中で誰かが言った。