いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました


『え~、咲山さん異動しちゃうんですか。残念だな。こんな美人が会社にいてくれたら毎日ヤル気出るのにな~』

 休憩中、上司が席を外した、談笑中。

 休憩中にも関わらず、余裕なく資料に目を通していた真衣香には声の記憶しかないのだけれど、

 惜しむ声の主が、坪井の声に変換されてしまう。

 そんな風に二人は距離を縮めたのかもしれない。

(って、もう嫌だ……妄想しすぎ)

 あやふやな記憶をも、二人に繋げようとする自分を、心の中でひっそり叱咤し、会話を見守る。
 
「え。何、今日本社来る日だったの?」

「ちょっとー、私、先週連絡したじゃん、行く予定だよって」

「……あー、見てないかも。マジで忙しかったんだよ、最近」
 
 見守っていた二人の会話が、不安な心を確定的なものにした。
 
(連絡、取ってるんだ……。別れてからも)

 モヤッとしたものが深まってく。
 珍しいことじゃないのかもしれない。 世間の別れた男女の間では当たり前のことなのかもしれない。
 ただ、真衣香が知らなさすぎるだけで、心が狭いだけなのかもしれない。

 そう、思うのに、自分と並んで歩いてるとき、笑い合ってるとき、触れてくれているとき。
 その時共にいた坪井は、咲山という綺麗な元恋人とも連絡を取り合い、彼女はまだ彼の世界に存在していた。
 その事実が、自身の想像を遙かに超えて、深く胸を抉ってきたのだ。
 
「怪しい~。 だって」

 咲山が真衣香に視線をうつした。

「新しい彼女なんだって?立花真衣香ちゃん」

 悶々と考え込んでいた真衣香に突然二人の注目が集まる。

「……え?」

 ものだから、反応が鈍くなってしまった。


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