いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
「お、すぐ乗れそうじゃん。 まだ電車ギリあるみたいだけどさ、お前危ないしタクシーで帰って」
「坪井くんは?」
「ん? 家、方向違うだろ? 前ら帰り見かけた時ホーム逆にいたから。お前」
(そんなの、いつ見たんだろ?)
疑問に思いながらも「そっか、残念」と小さく声にして先頭に停まってたタクシーに乗り込もうとした、真衣香の。
「え!?」
手首が掴まれて、強く引き寄せられた。
ポスン、と。
坪井の身体に抱きつくような形で身体が密着する。
スーツの、固い布の感触が頰に当たった。
(い、いいにおい……!)
爽やかな香りと緊張と、まだ残る少しの酔いで目眩がしそうだ。
ふわっと、頰に坪井の手のひらが包むようにして触れ視線を上げた真衣香と目が合う。
「お前の、その顔凄い好き」
囁くような声。
坪井が屈むようにして、真衣香との距離を縮めて。
どんな顔だ? と、真衣香が疑問を口にできる間も無く。
「……んっ、んんっ!?」
「逃げないで、立花」
突然、触れ合った唇。
触れ合うという表現が正しいのかもわからない。
もっと、食べられてしまうかのように唇を覆われてしまってるような感覚。
そんな、性急なキスだと真衣香は思った。
咄嗟に前に手を出して坪井を押そうとした真衣香の、その身体ごとを奪うように。
キツく、腰に手が回され、固定されてしまう。
驚き、呼吸を求めると。
熱い舌が口の中に入ってきた。
その舌の痺れるような甘さ。
『甘い』と、よく表現されているキスは何も本当に舌が感じる味覚をあらわしていたのではなく。
唇から身体全体に響き渡る感覚、熱、その全てを。
まるで自分の脳が甘い、と錯覚しているかのような。
そんな恐ろしくも、恍惚とするもの。