いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
坪井side① いつもどおり
目の前から去っていこうとする女を引き止めたいと思ったのは、きっと初めてだったと思う。
この足を、気を張って押し留めなければ……きっと、追いかけ引き止めたんだろう。
(あの流れで何が〝送る〟だっての、おかいしだろ、どう考えても)
『ごめんなさい』
震える、か細い声で、ぼろぼろと涙を流しながら何度も言った。
彼女の反応は予想外だった。
(どうやったら、ああなれるんだ)
思えば、いつも真衣香は予想外だ。
坪井にとって、いつのまにか常識となっていた全てを覆す勢いで。
人のことばかり気にして案じて、どこまでも優しくて。
人を疑うことを知らないんじゃない、疑うことを前提に生きている自分とは真逆なだけだ。
信じることを前提に生きている、あの強さは畏怖であり、憧れでもあったように思う。
「……と、そろそろ行けるかな」
ひとり呟き、立ち上がるとコートを羽織った。
その、後ろから出てきた、同じくハンガーに掛けられていたままの真衣香のコート。
(あー、ヤバいだろ寒いじゃん、あいつ)