いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました



「うん、うん、その駅……ごめんねぇ、ま、待ってる……」

車道から奥に入り、民家ばかりの細い道だ。
騒音は遠くほとんどない。その為、声はよく響き拾う事ができた。

聞こえてくる内容からして、友人である優里は最寄りの駅まで真衣香を迎えに来てくれるようで、坪井は身勝手にも少しホッとする。

駅までは、そう遠くない。

よろり、とふらつきながら立ち上がる後ろ姿に、思わず駆け寄りそうになった。
その足を、踏みとどまらせるものは、いつまでたっても胸に巣食うくだらない昔話のせいだろうか。

自分はいつも、いつまでたっても、我が身可愛く自分を守ることしか考えていない。

坪井は、駅へと続く歩道を、ゆっくりと歩く真衣香を見送りながら一連の行動を思い返す。

咲山の前で、これでもか……と。真衣香を特別扱いしたつもりだった。大切な女だよ、とアピールして。突き落とせば、その傷は一層大きなものになるだろう。

(俺のことなんか、思い出したくもなくなるだろ)

それは、これまで関わってきた女たちとの関係と同じのはずなのに、なぜかスッキリとしない。

(夏美の前での態度って、どこまでほんとで……どこから嘘かよくわかんないんだよな)

例えば。軽く触れ合った程度の仲に、育つ感情を垣間見ると、それは坪井の中で終わりの合図だった。
見えた途端に不快感が増していき、
『これ以上は面倒なことになるな』
……と、予測し関係を絶っては繰り返した。

今回はどうか?
わからないと感じることが初めてだから、正解がわからない。
わからないけれど、ひとつ確かなのは。

(あのままヤってたら、やばかったろーなぁ)

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