いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
言いながら、くるりと坪井に背を向けて、咲山は先ほど自分で閉めた玄関の鍵を、やけにゆっくりと音を響かせながら開けた。
「ねえ、ちょっと聞いてもいい?」
「うん、なに?」
もういつもの、よく知る咲山の声だ。
きっと平気そうな声を絞り出しているんだろう、小さく細い背中を眺める。
「ね、涼太の中で……立花さんと、その他大勢の女。ってカテゴリーで分かれてるんだろうけど」
そこまで言って、咲山は大きく息を吸い込む。そしてしばらく黙り込んだ後ハッキリとした口調で続けた。
「その他大勢の女の中で、私って特別だった?」
出会ったころ、自信に満ちた表情が印象的だった。
『こんなに思い通りにならない男、涼太が初めて』
そう、何度も囁いていた。派手で目立つ、整った顔立ちを見下ろすたび『そりゃ、お前美人だもんね。男なんて好きに転がしてきたんだろ?」なんて、返したものだ。
そんな女に、なんて言葉を吐かせている。
「特別じゃなかった、みんな一緒だったよ」
「……はは、そっかぁ」
気が抜けたように、大きくため息をつきながら咲山は上を向いて。それからゆっくりと振り返った。
「スッキリした、ありがと。ま、本社にはちょこちょこ顔出すし、見かけちゃったら挨拶くらいはしようね、お互い。坪井くん」
「了解、咲山さん」
本当のことなんて、慰めにもならないし。この先の未来をなにひとつ変えやしないだろう。