いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
(俺が、幸せにしたいとは思えないんだけど……でも)
幸せになってほしいと思った。
玄関の扉を開けた咲山と、同じタイミングで立ち上がると「まさか送るなんて言わないよね、坪井くん?」と。まるで"美人な先輩社員"という認識しかなかった、出会った頃のような口調で言った。
開け閉めされた玄関の扉。咲山が去って、隙間から冷たい風が吹き込んだ。
冷えていく身体。けれど胸に浮かんだ笑顔のおかげで、そこだけは暖かいような気がして。坪井は力なく笑みを作った。
傷つけた人の顔を、声を、言葉を絶対に忘れるな。
向き合い続けたら、一歩ずつ近づいていけるかもしれない。そんな、淡い期待がどこかにある。
(っていってもなぁ、何しても俺無理じゃん)
人の心を、自分可愛さにどれだけ傷つけてきたんだろうか。ことさらに純真な真衣香には到底並べる気がしないのだ。
「……会いたいなぁ」
それでも、わかっていても、本音が口をつい出る。
同僚としてではなく、手を伸ばせば抱きしめられる距離で会いたい。
けれど、それを願うには傷つけてきた人たちが多すぎた。
「……ははは、言われなくてもわかってるって。八木さんの方がいいに決まってるよ、立花には」
もういない咲山に、今更ながら返事をしてしゃがみ込む。虚しさと焦りを誤魔化すように、手のひらでキツく顔を覆った。