いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
「俺は、目の届かないところでダメージ受けられてるほうが困るんだよ、いいか? 余計なこと考えるなよ」
「……はい」
「悪いと思うんなら、そうだな、関わらせといてくれ」
「わかったな?」と、念を押される。
返したい言葉はたくさんあるが、どれもうまくまとまらない。真衣香は曖昧に頷いた。
優しさは、じわりと胸に暖かく、そして少し痛いものだ。
「よし、じゃあFAX送ったらもう帰れ。俺はまだ帰れねーから」
「……総務の仕事じゃなくて、ですか?」
どこかは知らない八木の異動先を思い浮かべて、子供みたいに拗ねた声を出してしまった。
「おい、マメコ、ついでにもういっこ教えといてやる」
「え?」
親指と人差し指で両頬を摘まれた。
ぎゅう、っと力を込められて。真衣香は自分の顔の状態がひどく恐ろしい。
そんな顔を八木は真正面から直視するのだから、やはり意地悪だ。
「自分に気がある男の前でそんな顔すんなよ、アホ。ほら早く行け」
ポン、と背中を軽く押され、その勢いでコピー機の方へ小走りで向かった。
そのまま後ろは見ないで、急いでFAXを送る。
振り返ってしまうと、また、優しい笑顔が見えてしまうだろうから。
意地悪だけど、優しい人。
***
忘れたいと思う心、それを阻む記憶。
初めての経験がどれも真衣香の心に深く刻まれていて、消えてくれない。
八木に急かされ会社を出てすぐ、立ち止まり晴れた夜空を見上げた。
ぼんやりと、月明かりとともに映るのは、今もまだ囚われたままの、彼の顔。
(いい加減、しつこいなぁ……私)
あんなにひどい目にあって、今もまだ振り回されていて。それで、どうしてこんな状態のまま動き出せないのだろう。
はぁー、と自分に呆れて息を吐く。
白く漂って空に溶けていくようすを、ジッと眺めていると。
「おや、立花さん。お久しぶりですね」
聞こえた声に、振り返る。
そこにはシルバー縁のメガネを、街頭の効果により妖しく光らせる長身の男性がいた。
「た、高柳部長……」
「今帰りかな?よかった、ちょうど君と話したいと思っていたんです」
「わ、私とですか?」
高柳が自分を探す理由が全く見当たらない。
しかし、後ろめたさはなくとも。目の前でジッと見つめられると嫌に緊張をしてしまう。