いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました


(な、なんで!?)

聞かれてしまった!と、弾かれるように立ち上がった真衣香は、二人の方に向かってくる坪井を避けるように走り出そうとした。
が、もちろん坪井はそれを許さない。

逃げようとする真衣香の腕を掴んで引き止める。

「待って!立花ストップ」
「は、離して、ごめん、笹尾さんの方に……」

真衣香の要求を拒否するかのように、触れる手に力が込められた。その感触は痛みというよりも、甘く暖かく、身体を痺れさせた。

そんな真衣香から力が抜けたことを確認した坪井は、次にその視線を笹尾に向け早口で話し出す。

「笹尾さん、ごめん!ちょっと下で待ってて、川口さんなら気にしなくて大丈夫。帰ってきた部長に突き出してきたし。当分戻らないから!俺もすぐ降りるし、それから話そう」

慌てている坪井は珍しい。
それは真衣香にも、笹尾にも共通の認識であった。

笹尾があっけに取られた様子で。けれど「わかりました」と、最低限の返事だけを返していた。

その声を最後まで聞き終わることもなく、真衣香は坪井に手を引かれ総務のフロアを出て小走りで進む。

「い、痛いってば坪井くん!」
「あ、ごめん」

と言っても、立ち止まってくれたわけではない。
人事総務部と開発部のフロア間にある資料室という名の物置、そのドアを開けた。
ゆっくりと閉じられていくドアの動きを待たずに、坪井がドン!と拳で殴りつけるようにして勢いよく扉を閉めた。
そのままの勢いで鍵も閉め、真衣香を壁に押し付ける。

「ちょ、ちょっと坪井くん……」

デジャヴかと思いきや、あの日のように乱暴な素振りは全くない。
優しく触れながら。切羽詰まったように、張り上げたい声をなんとか押さえつけているかのように。

「なぁ、立花」

坪井は、ゆっくりと声を絞り出し、真衣香の名を呼んだ。

「俺さ。さっきの聞き逃せるほど、余裕ないんだよね、今」

言葉どおり。表情にも声にも、いつもの飄々とした読めない余裕さを感じない。

「嫌なんだ? 俺が、他の女のものになるの、嫌?」
「わ、わからない……」

< 290 / 493 >

この作品をシェア

pagetop