いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
優しく、まるで言い聞かせるような甘い声。
きつく目を閉じて、その声から、視線から、逃れようとするけれど無駄だった。突如、耳たぶに唇が触れたから。
「ひゃ!?」
甘噛みのようなそれに、身体は悔しいけれど大きく反応を示してしまった。
「教えてくれないんだ?」
そのうえ視界を遮ってしまっている分、耳にあたえられる刺激が鮮明だ。言葉を取り繕う余裕が消えてしまう。
「だって、わ、わからないの……。でも嬉しかった、ホッとしたの。坪井くんが来てくれた時、私……」
「うん」
「信じてくれてて、嬉しかったの……。たくさんの人が見てた、あの時。でも誰も、誰も川口さんとの間に割って入ろうなんてしてくれなかったんだよ」
真衣香が小さい声ながらはっきり答えると、耳元で坪井の呼吸が大きく乱れたのがわかった。
まるで、聞こえてきた内容が予想外だったとでもいうように。
「……っ、いや、それは。俺が感謝されるものじゃないよ。お前が俺を動かしてるだけで」
「え?動かして……って」
「結局のとこ、お前がもし“間違えたこと“をしてても、変わらないと思う。そうさせた相手が悪いんだって、俺はそんなふうに見境なくお前が好きなんだよね」
一定の音で淡々と、当たり前のような口調で坪井が言った。その言い回しは、やはり坪井らしくてよくわからないが……。発する言葉の真偽は置いておくとしても、迷いがないことだけは伝わってくる。
「……それに、さ。言っても、肝心な時に疑った男だよ俺は」
「肝心な、時に?」
力なく頷いて、顔色をうかがうように真衣香より目線を低くして、少しだけ見上げてから。さらに言葉を続けた。
「うん。でも、疑っても怖くてもさ、俺は結局お前から離れたくない。だったら仕方ないよな、全部抱えて好きでいるしかないんだって。思ってるよ、今は」
そう言葉にし終えたなら、ちゅっと耳元で短く音が響いた。
次は触れただけじゃない。短い、だけど確かなキスだった。
そうして、ゆっくりと。坪井の身体が離れていく。途端に熱くなっていた身体はひんやりとした空気を取り込んでいった。
「てかごめん、ちょっと調子乗りすぎた。さすがに嬉しかったから」
「嬉しいって……」
「まだ、ちょっとでも八木さんに勝てるかもじゃん?ってさ、ごめん」
固く結ばれた唇。笑みを作ろうとする自分を抑えているように見えた。
それを見ていると。ぎゅうっと、胸が押さえつけられたように、痛い。痛くてたまらない。