いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
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(それで、今に至るという……)
坪井は、真衣香に触れていた手をじっと見つめながら息を吐いた。
(いや、ほんと俺、堪え性ないな)
『協力なんて、やだ……、坪井くんが』
『笹尾さんを好きになるの、見たく……ない』
聞こえてきた真衣香の声に、固まった。
信じられないくらいに動揺した。
”こんなこと”で、だ。
真衣香の心は八木に向いているのかもしれない。坪井に気持ちなどないのかもしれない。
けれど”つい出てしまった言葉”の中に、ほんの少しの執着が見えた、それだけで、どうしようもなく嬉しかった。
もっともっと、その心が欲しい。彼女の執着で、身動きなど取れなくしてほしい。
そんなふうに真衣香の心が恋しくて、愛しくて、求め続けてしまっていること。
坪井は嫌というほどに実感していた。
交わらない“好き“が続いていく切なさと一緒に。
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「笹尾さん、ごめん。大丈夫だった?」
「坪井さん!」
営業部のフロアを見れば、先程よりも人が減っている。もう19時近くになっているのだから、帰って行った社員も多いんだろう。
そんな中、笹尾は自分のデスクで仕事をしていたようだが、坪井の声に反応し嬉しそうに駆け寄ってきた。
「まだ川口さん出てきてないみたいだね」
「そうですね。まだ部長といるみたいで」
そう言ってジッと見上げてくる顔を、見つめ返す。さっき川口に泣かされてた割には綺麗な顔だ。
顔を小綺麗にしておきたいと気が回るくらいなのだから、まあ大丈夫なのだろう。
テカテカと光る笹尾の唇に、フロアの照明が反射していた。
一階のとりあえず人気のないところ……と考えて、朝の真衣香の姿を思い出す。
坪井は顔を綻ばせながら、応接室に入ることにした。思い出すだけで愛おしくなるのだから、本格的にヤバそうだ。
「笹尾さん、こっち、ちょっといい?」
「え……!? 2人で入るんですか?」
応接室を指さすと、期待に満ちた声を返された。
「ま、ここなら誰にも聞かれないし、その方が都合いいかと思ったんだけど。違う?」
「違わないです」
”都合悪い”の解釈が、反応的に違ってる気もするけれど、話さなければいけないことに変わりはない。
内心肩をすくめた。