いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
「い、痛いん……ですけど」
口元がうまく動かないからか、ゆっくりとした抗議の言葉。
「そりゃ、痛むように掴んでるから。でも、一応加減してあげてるんだよね。だから、あいつの方がもっと痛かったと思うよ。比べたら可愛いもんじゃない?」
「あいつって……」と、聞き返してくる声に怯えの色が混じりだした。そうだ、もっと怯えればいい。あいつが感じた恐怖よりも、もっと。そんな思いが心の中で渦巻いて、更に指に力が入る。
瞳の中に映る自分の姿が歪んで見えて、笹尾が涙を溜めていることがわかった。
しかし、そんなことはどうでもいい。もともと女の涙になんか反応することもなかったし。今でも無理なのは、真衣香が泣く姿くらいだ。
そもそも、本当に泣いているのかもわからない。いくらでも“そう“見せれる女だろうから。
考えれば考えるほどに、声は低く這うようにして笹尾へ伸びていく。
「なあ、立花は優しいだろ? そりゃ、笹尾さんほど頭回るなら使いようは色々あるんだろうね」
「痛……、ほんと、や、やめてくださ……」
恐らく坪井の気を引く為にだろう。無駄に塗りたぐった化粧がヨレて。自慢であり武器であろう一般的に見て可愛らしい顔が、指の圧力で崩れて。坪井の口から乾いた笑いが思わず漏れ出る。
それほどに滑稽な眺めだった。
数分睨みつけたあと、笹尾の顔に触れていた指を離した。汚いものにでも触れていたかのように、坪井は手を払う仕草を笹尾に見せつけて、ソファーから立ち上がる。
「でも俺は、そーゆうことする奴絶対許さない。自分も含めて」
「た、立花さんは坪井さんに振られたって言って……だから私、が、頑張ってみただけで」
大きく見開かれた瞳が、信じられないものを見るかのように坪井を見上げ、震える唇で言い訳とも取れる発言をする。
無意識に、我が身を守る。それは、何も笹尾だけではない。坪井だってそうだ、他の人間も。そうやって生きている。
普通なら見ないフリをしてやる、人間の真っ当な弱さだ。