いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
ただ、笹尾は、身を守るために選んだ手段を"坪井の目に入るところで"実行してしまったことが間違えだった。
そして何より真衣香を選んでしまったことが失敗だった。
「あーうん、そうだね。あいつの中ではその認識のままなのかも」
「も、もう好きじゃないなら、なんでそこまで」
「いや、好きだよ。まあ色々あって、伝わらないけど」
怯えるような表情の笹尾を見下ろして、口元の筋肉を無理やり動かした。ニッコリと笑顔を作るため。
「ってことだから、笹尾さんの気持ちは嬉しいけど、ごめんな」
「……え? は、はい」
そんなのもうわかりきってますけど。という声が聞こえてきそうな疑問に満ちた顔。けれどすぐに笹尾は坪井の笑顔を、そのままに解釈したようで。
難を逃れたかのよう、ホッと息を吐いた。
「だから、頼むよ。もう立花を巻き込んだり、傷つけたりしないようにしてやって」
そんな笹尾を眺めながら、次。
坪井は顔から力を抜いた。必死に筋肉を固定していなければ笑顔など向けていられなかったから。
スッと笑顔が消えて、その表情の変化に。笹尾が怯えながら小さく何度も頷く。そして息を呑んだようすを確かに見た。
そうして、ゆっくり口を開く。
「頷いてくれたんなら、守って。絶対だよ、約束できる? 俺、立花のこと利用しようなんて人間見逃せないからさ。一応同僚だし、笹尾さんに酷いことはしたくないから。約束して」
男を手駒にすることに慣れた人間が、そう出来なかった上に、目の前で何度も変化する表情に踊らされていく。
その読めない感情と、奥が見えないセリフに。少しでも恐怖を感じているといい。
「ひ、酷いことって、そんな……、同じ会社の、人間相手に……何を」
「え? 何だってやりようあるじゃん。笹尾さんがしたみたいに、仕事中に嵌めてもいいし」
敢えて、驚いたような声で話してみた。
「そんな……」
すると、まさか。それに対して返ってきた声も、驚いたように聞こえるものだったから。
坪井は迫り上がってきた怒り。それを、息を吐いて何とか逃す。
(人にはできて自分がされるのは嫌って、舐めてんじゃないの。お前が立花嵌めたんじゃん)
何とか自分を落ち着かせ、怒りをぶつける変わりに冷笑を浮かべた。そして、さもいい提案だと言わんばかりに言葉を続ける。
「あ、でもさ。職場ではうまくやっていきたいって言うんなら協力してあげてもいいよ。その場合は――」