いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました
一旦区切ると、続きが気になるのか、それともただ恐ろしいのか。笹尾は坪井の顔を覗き込み、声の続きを必死に待っているようだ。沈黙が恐ろしいのだろう、目が泳いでいるが。
「立花に嫌われたら困るし、切ろうかなと思ってた飲み仲間。あ、バイトしてた頃の先輩ね。けっこうクズでさぁ、女を物としか思ってないの多いんだよね」
「え……」
予想していなかった言葉なのだろう。笹尾の身体が固まった。
「そいつらのとこに差し出してあげよっか? 笹尾さん、自分で可愛いって自覚あるんでしょ。余裕でまわしてもらえると思うけど」
「……は? ま、まわすって」
「てか俺以外にも散々色目使ってたじゃん、会社で。そんなに男が好きなら“酷いこと“にならないかもね。死ぬほどセックスできるんなら、笹尾さんにはご褒美になっちゃう?」
それだったら困るなぁ。とにっこり笑う坪井の薄っすら開いた瞳に笹尾の顔色が……心なしか青ざめたように変化して見えた。
「は、犯罪ですよ、そこまでできるわけないですし」
震え声ながりも言い切る笹尾に、呆れた声を返す。
「はは、本気で言ってる? 今便利な世の中じゃん。女がおおっぴらに泣きつけないようにさ、すっげぇ簡単に動画残せんだよ」
「……何、それ」
「は? 何って、何が? 俺おかしいこと言ってる? 言ってなくない? お前だって、こうやって釘刺さないと同じようなことするんだろ立花に」
矢継ぎ早に語尾を上げ質問を繰り返す。 焦った頭では答えられないであろうこと、わかったうえで。
「わ、私は……そんなことまでは」
「嘘つけ。まあいいや、やるなら次お前が何かしら仕掛けて来たら、だし。それより返して」
「……な、何をですか?」
「立花の印鑑返して。デスクになんか置きっぱしてないでしょ? 今返せよ」
弾かれたように、笹尾がカーディガンのポケットに手を入れる。焦りの為か、取り出した印鑑を床に落とした。ピンクのケースにはめ込まれ、ウサギ型のキャップをかぶった可愛らしい印鑑。
それが、コロコロと足下に転がってきた。
(可愛いな……)
真衣香が、営業部のハイカウンターに忘れていったのを何度か見かけたことがある。
普通に可愛らしいが、真衣香の物だと思うと更に可愛く映る。