いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました



どこからか流れてくるクリスマスソングに、はしゃぎ合う男女の声に、耳を澄ませる。

どこか落ち着かない、独特の空気。

(クリスマス、ねぇ)

……そんなもの、いつからか、特別ではなくなってた。

夢のように心躍るクリスマスは文字どおり親が作っていてくれた、夢の時間。サンタなんていないこと理解してからは。
欲しいものなんて待ってるだけでは、何も手に入りやしないと知った。

やがて、子供でなくなると、待っていたのは過ごし方を自分で選べるクリスマスだ。
基本的に、この時期彼女が切れたことなどない坪井は決まって女と過ごしていた。
だからと言って、先程から何度も目の前を通り過ぎてゆく恋人たちのように笑顔を見せ、愛し愛され満たされていたわけではない。

ひとりきりの寂しさや飢えがない代わりに……とでも言えばいいのだろうか。
まるで台本に描かれているように、お決まりのテンプレ。
それを、毎年別の女相手に繰り返しているだけのような、味気ないクリスマスだった。
それが、かろうじて坪井の頭の中に残っているクリスマスの思い出だ。

(マジで"かろうじて"なんだよね覚えてるの。普段のデートと何が違うんだよってバカにして、眺めてたくらいで。何も印象に残ってない)

もちろん、それはクリスマスに限ったことではない。誕生日やカウントダウン、バレンタインなんかもそうだったろうか。
……それらを特別視して独占したがる女の気持ちを理解できたことなどなかった。

なかったのに。

空を見上げてた、その目をゆっくりと、けれどキツく閉じた。苦しげに吐息を漏らす。
 
(くっそ……勝手なもんだな。今更理解するのか)

……身勝手にも。今日という日に"特別"を感じて。想っててくれないかなと、願い、求めてる自分がいた。

(隣に、いなくても、どっかで俺のこと)

気にしていては、くれないかと。
特別な夜に、彼女の心を支配するものが。

(俺ならいいのに、とか)

こんなふうに、願う日だったのか。
想っては切なくなるような、特別な日だったのか。
知らなかった。
世の中の、クリスマス……いやイベントを特別視する人間たちの心理。

”その日”が大切なわけではないんだろう。

きっと、特別な日に愛しい人の心の中に存在していられるかどうか。

家族だって、恋人だって、友人だって、なんだって。

大切なのはきっと、そこなんだろう。


< 342 / 493 >

この作品をシェア

pagetop